12 3/17 UPDATE
いやホント、ロマン・ポランスキーってのはつくづくヘンな奴だ、と思う。いまだに入国制限受けるような、ああいう事件を起こしたから、ってワケじゃない。映画監督としてはもう充分「巨匠」の格。なのに、このあいだの『ゴースト・ライター』みたいに、ただただ巧いがそれだけな映画なんて作っちゃって、なんだかちっとも有難味がないんだもん。もちろん僕には、『戦場のピアニスト』みたいな深刻ぶった作品よりずーっと嬉しいんだけどね。
今回だってそうだ。上映時間79分、長さもコンパクトだが、たった二組の夫婦がアパートの一室で"けんか"するだけのシンプルなつくり。ご想像のとおり、原作は舞台劇である。日本でも一昨年、大竹しのぶらが「大人は、かく戦えり」の邦題で上演したヤスミナ・レザのトニー賞受賞作"God of Carnage(虐殺の神。本映画版タイトルはずばり「虐殺」)"だ。レザといえば25年ほど前、カフカの『変身』を脚色した劇作家。ポランスキー自らザムザ氏を演じ、伝説となった舞台以来のつきあいであろうか。
本作も見た目こそシンプルだけど、参戦する四人はいずれ劣らぬ演技猛者。スクリューボールな高速で展開する丁丁発止のやりとりはハイテンションかつスリリング。
もとはといえば公園での子供どうしの喧嘩沙汰だ。"被害者"宅に"加害者"の親が出向いて、まずは手打ちと相成ったが、ずるずる親睦を深めようとするうちに、今度は大人どうしのバトルが始まる。"被害者"側は、日用品店の店主(ジョン・C・ライリー)とリベラルなアマチュア・ライター(ジョディ・フォスター)のロングストリート夫妻。"加害者"側は、大企業相手のヤリ手弁護士(クリストフ・ヴァルツ)と投資ブローカー(ケイト・ウィンスレット)のカウアン夫妻。
ここで試合内容を逐一書いてしまうのは興を削ぐことになるだろう。苦笑哄笑爆笑のジャブを互いにひたすら繰り出しながら、よしときゃいいのに何度も延長される夫婦どうしのバトルは、やがて「男と女」のセックス・バトルへ、そして国家紛争の戯画へと様相を変えていく。
ただ、これだけは言っておきたい。真ん中あたりでケイト・ウィンスレットがやってのける"ある生理現象"は、『モンティ・パイソン/人生狂騒曲』と並んで、映画史に記されるべきエポックであると(笑)。
text: Milkman Saito
原題: Carnage
監督: ロマン・ポランスキー
原作: ヤスミナ・レザ
出演: ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリー他
制作国: フランス、ドイツ、ポーランド
制作年: 2011
上映時間: 79分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
TOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー上映中
http://www.otonanokenka.jp/