honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

Midnight in Paris

Midnight in Paris

ウディ・アレンが贈る
パリを舞台にしたラブコメディ

12 6/15 UPDATE

40年以上にわたってほぼ年1作、40数本におよぶ映画をモノしてきたウディ・アレン。長くその地の代名詞のように称されたニューヨークを離れ、ヨーロッパ各国をボヘミアンのようにめぐり歩いて映画を撮りはじめてからのここ10年、昔ほどの生彩を欠くというヒトもいるけれど、なんの、『それでも恋するバルセロナ』や『マッチポイント』のような快作が生まれていたことを無視していいものか。

でも今回の『ミッドナイト・イン・パリ』は一歩抜き出た作品である、という意見に異を唱えるのは難しい。それはたぶん、かつてのウディ作品......それも初期作品の軽やかさをこれに感じるからだろう。それとアメリカ文学黄金時代への憧憬と、'20年代のパリにたむろした高等遊民的でボヘミアンな芸術家たちへの共感が。

主人公はオーウェン・ウィルソン演じるギル。その演技スタイルも含め、若き日ならばウディ自身が演じていたようなキャラクターだ。ハリウッドでは売れっ子脚本家として知られちゃいるが、小説家になるという目標を断ち切れず、いまも回顧主義者が主人公の物語を売れるアテもなく書きつづけている。そんな彼が、美人の婚約者(レイチェル・マクアダムス。アメリカン・コメディ好きには『ウェディング・クラッシャーズ』コンビ再びですね)とパリにやってきた。しかし自分のこだわりに興味を示さない彼女にも、そんな彼女の似非インテリ好きにも、共和党支持者の彼女の両親にも心底ウンザリだ。

そんなある夜、パリの街角を歩いていると午前0時の鐘とともにクラシカルなクルマがやってきた。乗客からの誘いを断れず、同乗すると行き着いたのは豪勢なパーティ。とまどう彼の目の前に現れたのは敬愛するスコット・フィッツジェラルドと妻のゼルダ、女性たちに囲まれピアノを弾き語るのはコール・ポーター。これはなんとジャン・コクトー主宰の文化人パーティ、憧れ続けた1920年代のパリ。ギルはロスト・ジェネレーションの時代にタイム・スリップしちまったのだ!

ギルはなんとも都合よく、毎日0時の鐘を合図にこの時代に舞い戻る。そこで出会うのはまさにジャズ・エイジ・オールスターズ。ヘミングウェイの文体で喋るヘミングウェイ、キャバレーでコンガを歌い踊るジョセフィン・ベイカー、車で乗り合わせるT.S.エリオット。『アンダルシアの犬』のダリ(エイドリアン・ブロディ)&ブニュエルそしてマン・レイらシュルレアリストたち。ジューナ・バーンズとは一緒に踊ったり、ピカソの新作を酷評するガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)に自分の草稿を批評してもらったり。さらにはもっと過去、ベル・エポック期のロートレックやゴーギャンやドガ、そしてマルクス(?)にも会い......。

でもこれって、この時代の知識があればもう無茶苦茶楽しいんだけれど(たとえば『皆殺しの天使』ネタなんてどうなの?)、そうじゃなければギル自身が批判するスノッブ的ウンチクそのものじゃん、と思わぬでもない(笑)。作家になりたくてしょうがないハリウッド・ライターのギルが、数年後には仕方なくハリウッド・ライターに"落ちぶれる"フィッツジェラルドに会う、という苦い皮肉も含め。

でもそこは『アニー・ホール』のマクルーハン登場シーンあるいは『マンハッタン』でのダイアン・キートンらによる"ウディのお気に入り全否定"シーンのように、まあ、詳しいこと知らなくても空気で笑えるように仕上がってはいるのだ。なんたって本作は豪勢だ。ウディ映画に必須の、美女とのランデヴーが三つもあるんだから。

ひとりは20年代の世界で出会うピカソの愛人アドリアナを演じるマリオン・コティヤール。ひとりは現代のパリの蚤の市の古物商レア・セドゥー。ひとりは美術館の案内員カーラ・ブルーニ(サルコジ夫人!)。そろってウディ趣味なルックスなのが笑わせる(とりわけカーラ・ブルーニ!)。

しかしだ。年に1本の男ウディは、決して過去に埋没しない。彼は今までも、「あの頃はよかった」式の懐古趣味な題材を扱ったとて、そこに耽溺することを否定してきた人物である。ここには抗いがたき「ノスタルジアの力」と今も闘うウディがいる。

たとえばそれは『カイロの紫のバラ』の、どうしようもなく不幸な結末に顕著だったりするのだけれど、本作ではあの、ちょいとばかし神経を逆撫でするような終わり方ではないのが深化というものか。しかも9.11以後ニューヨークを捨てたウディがようやっと表明した、アメリカ決別宣言じみたものが感じられぬでもない。そう、「だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも(フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」、村上春樹訳)」。

text: Milkman Saito

ミッドナイト・イン・パリ
監督・脚本:ウッディ・アレン
出演: キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ、マリオン・コティヤール、レイチェル・マクアダムス、オーウェン・ウィルソン
原題: Midnight in Paris
製作国: 2011年スペイン・アメリカ
上映時間: 94分
配給: ロングライド
新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードショー

新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ他、全国公開中

© 2011 Mediaproducción, S.L.U., Versátil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

http://www.midnightinparis.jp/