12 7/19 UPDATE
マシュー・マコノヒー、ひさびさの当たり役である。ここ数年、これといった印象を残すこともなく、しかし消えることもないまま俳優業を続けていた感のある彼だが、やっとこさ「年に一作くらいのシリーズで観たい!」と思わせる役柄に出会うことができたようだ。
そのキャラクターとは、リンカーン・コンチネンタルの後部座席をオフィス代わりに、有罪確実な依頼人を無罪に、あるいは刑をぐっと軽くするためL.A.の裁判所を飛び回る敏腕弁護士。もちろんカネにはうるさい。思えばマコノヒー、ブレイクスルーとなったのはジョン・グリシャム原作の法廷劇『評決のとき』の弁護士役だったが、やっぱこのヒト、そういうのが似合うのかなあと思うけれど、本作はぐっとイイカゲンで、必要悪は必要悪と受け流してるキャラクター。
ま、物語としては、マコノヒー扮するリンカーン弁護士=ミック・ハラーが殺人事件の弁護を引き受けることになった、限りなくクロな富豪プレイボーイ青年(ライアン・フィリピー)との駆け引きを中心に進行していく。ま、ミステリゆえに詳しくは書かないが、清濁合わせ呑みつつも依頼人の無罪は必ず勝ち取る、しかし正義は断固として守り抜く、という"ワルにみえて結構頼りになる"ミックの適度なユルさがこの作品のすべてであるといっていい。それには私生活でけっこうヤンチャしてきたマコノヒーのリアル感がしっかり裏付けしてるのだが。
あ、そういえば日本のTVでも、同様の必要悪弁護士が好き放題暴れまくる『リーガル・ハイ』という痛快な弁護士ドラマが放送されたばかりだ。スクリューボール的超速トークを楽々こなす、堺雅人の悪徳すれすれキャラがユニークさを全開させていたが、その系列と思ってもらっても構わない。
超人気ミステリ作家マイクル・コナリーの原作はシリーズ化してもいて、実際、本作第2弾の製作も決定したとか。さらにはTVシリーズ化も検討されているということで(マコノヒーはキャスティングされてないらしいが)、先に書いた「年に一作くらいの~」的中毒感はもしかするとTV好きする要素が濃いからなのかも知れない。
ライヴァルともいうべき検事という役職でありながら、なんとミックの元妻で、別れてからも良好な関係を保っているマギー(マリサ・トメイ)の存在。もっとも頼れる調査員である(おそらくはゲイの)私立探偵フランク(ウィリアム・H・メイシー)。かなりヤバい仕事ばかり手掛けているらしい保釈金立替業者(ジョン・レグィザモ)。ミックのすべてを理解しているっぽい"執事"的役割の黒人運転手(ローレンス・メイスン)。......たとえエピソードが変わっても個性を発揮してくれそうな、主人公周辺キャラが魅力的なのも思えばTV的だ。脚本のビル・ロマーノは'80年代に僕ものめりこんだTVドラマ『ヒル・ストリート・ブルース』(厳密な一話完結ではなく、複数の事件が同時進行していくという、今のアメリカのドラマ・スタイルの始祖)や『L.A. LAW/7人の弁護士』のライターだった人物だから、そのあたり勝手知ったるもの、って感じなのだな。
text: Milkman Saito
リンカーン弁護士
監督:ブラッド・ファーマン
脚本:ジョン・ロマーノ
キャスト:マシュー・マコノヒー、マリサ・トメイ、ライアン・フィリップ、ウィリアム・H・メイシー
原作:マイクル・コナリー「リンカーン弁護士」(講談社文庫刊)
原題:The Lincoln Lawyer
製作年:2011年/アメリカ/119分
配給:日活
丸の内ピカデリーほか全国ロードショー中
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