12 8/24 UPDATE
キューバ。文化的にそこは混淆の土地だ。というか、混淆こそが文化の子宮。異文化が混じりあってこそ強靭な、新しいものが生まれる。
いちばん判りやすいのは音楽。奴隷たちが持ち込んだアフリカン・リズムに、呪術信仰とキリスト教が混淆して生まれたサンテリアの儀式音楽、それに侵略者スペインからもたらされたヨーロッパ音楽が混じりあって、すべてのラテン音楽の土台であるキューバ音楽が誕生したのだ。
このオムニバス映画もキューバ、そしてカリブやラテン・アメリカとヨーロッパの作家たちが混じりあうムラートな構成。キューバの首都ハバナで、ある一週間のそれぞれの曜日に起こった出来事という体裁で、7人の監督がそれぞれ別のエピソードを担当する。
月曜篇の監督はプエルトリコ生まれのハリウッド・スター、ベニシオ・デル・トロ(だからイタリア人の血が彼に入っているとしても、「ベニチオ」じゃなくて「ベニシオ」と呼びたくなる)。火曜篇はアルゼンチン映画界の旗手、パブロ・トラペロ。水曜篇はスペインのちょいエロな鬼才、フリオ・メデム。木曜篇は「イスラエル(といってもパレスチナ人)のジャック・タチ」ことエリア・スレイマン。金曜篇はアルゼンチン生まれにしてフランスで活躍する『カルネ』『アレックス』等の変態監督、ギャスパー・ノエ。土曜篇は『苺とチョコレート』のキューバ人監督、フアン・カルロス・タビオ。日曜篇は『パリ20区、僕たちのクラス』でカンヌのパルムドールを獲ったフランス人監督ローラン・カンテ。
こういうオムニバスでは得てして作品的にムラができるものだが、さして見劣りするものはない。それぞれの監督がそれぞれの個性を発揮しているといっていいんじゃないか。ま、ギャスパー・ノエだけは、レスビアンという「呪い」を祓うべくサンテリアの儀式に放り込まれた少女の、その儀式を延々と撮りつづけるというものだけに全体からはっきり浮いているのだが。
サンテリアの巫女さんなのか何なのか、「オチュン(≒マリア)のお告げで今夜パーティを開くからその準備を!」と朝っぱらからのたまうバアさんにワケ判らんまま応じて、おんぼろアパートの住人たちが一斉に奔走しはじめる日曜篇。映画監督のエミール・クストリッツァが自らを演じ、ティンバ(キューバン・サルサ)界の名トランペッター、アレクサンダー・アブレウと共演(運転手の役なんだけど、これがまたしっかり演技してるんだ!)する火曜篇も楽しい。
でも映画的に図抜けてるのは木曜篇だ。政府要人にインタヴューするためキューバを訪れたパレスチナ人 (監督自身)がヒマを持て余して見るハバナは、誰もいない動物園に、突堤でぽつぽつ見かける何にもしてない人々。でも次第に心がほぐれてくる様が、画だけでなんとな~く理解できる。日本では『D.I.』('02)しか公開されていないが、東京国際映画祭で上映された『時の彼方へ』('09)も圧倒的にオカシく素晴らしかったエリア・スレイマンが、ここでもほぼ台詞もなく、構図と間だけで魅せる彼なりの映画術を見せつけてくれて大満足だ。
text: Milkman Saito
月曜日『ユマ(EL YUMA)』
監督:ベニチオ・デル・トロ
出演:ジョシュ・ハッチャーソン、ウラジミール・クルス、デイジー・グラナドス、オテロ・レンソリ
火曜日『ジャムセッション(JAM SESSION)』
監督:パブロ・トラペロ
出演:エミール・クストリッツァ、アレクサンダー・アブレウ
水曜日『セシリアの誘惑(CELIA'S TEMPTATION)』
監督:フリオ・メデム
出演:ダニエル・ブリュール、メルヴィス・エステベス、レオナルド・ベニテス
木曜日『初心者の日記(DAIARY OF A BEGINNER)』
監督:エリア・スレイマン
出演:エリア・スレイマン、セバスチャン・バリオ
金曜日『儀式(RITUAL)』
監督:ギャスパー・ノエ
出演:オテロ・レンソリ、クリステラ・ヘレラ、ドュニア・マトス
土曜日『甘くて苦い(DULCIE AMARGO)』
監督:フアン・カルロス・タビオ
出演:ミルタ・イバラ、ホルヘ・ペルゴリア、メルヴィス・サンタ・エステベス、ベアトリス・ドルタ
日曜日『泉(LA FUENTE)』
監督:ローラン・カンテ
出演:ナタリア・アモーレ、オテロ・レンソリ、アレクシス・ヴィダル
製作年:2012年
製作国:フランス/スペイン
上映時間:129分
配給:コムストック・グループ、アルシネテラン
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中