12 11/02 UPDATE
なんつったって、いまの欧米アクション映画界で(アジア圏は強者があまたいるので除外させていただきます)いちばん「当り」が多いアクターとなると、ジェイソン・ステイサムに決まりだ。アクション・スター総出演が謳い文句の『エクスペンダブルズ2』だって、最初から最後までまともに動いてるのはステイサムだけじゃないか。
彼の作品選択眼が優れているのか、身体能力・演技力・たたずまいが駄作も佳作に押し上げるのか、とにかくあまりがっかりする作品が少ないが、本作は間違いなく、ステイサムのフィルモグラフィでも上位に食い込む傑作だ。
といって、ストーリーが斬新だとか凝っているとか、そういうわけではない。ま、いってみれば『グロリア』+『レオン』+『マーキュリー・ライジング』といったところ。つまり、タフガイが幼い天才少女を組織の魔の手から守り続ける、というやつだ。しかしありきたりな物語でも、あのハードボイルドだけれどどこかすっとぼけたステイサムが暴れ出せばもう、手が付けられないほど濃密な活劇空間へと変貌する。
まずチャイニーズ・マフィアのボス、ハン(ジェイムズ・ホン)の命により、南京からニューヨークに連れてこられた少女、メイ(キャサリン・チェン)がいる。彼女はたちどころに数字を記憶し計算する、数学の天才少女だ。ハンは彼女に、莫大な裏収入を収めた秘密金庫の暗証番号を覚えさせ「生ける鍵」としたのだ。
そして陰謀に巻き込まれ、ニューヨーク市警から裏切り者として放逐された元刑事・ルーク・ライト(ステイサム)がいる。賭け格闘技のファイターにまで落ちぶれていた彼は、負けなければいけない八百長試合の相手を殴り殺してしまった。大損したロシアン・マフィアは彼の愛妻を見せしめに惨殺、ルークは行き場のない身となる。そんなとき仇であるロシアン・マフィアがひとりの中国人少女を目の色変えて追いかけるのを目撃し...。
さらにルークを陥れた市警の悪徳警官たちがいる。「生ける鍵」を拉致してチャイニーズ・マフィアの金を奪おうとするロシアン・マフィア。逃走した「生ける鍵」を必死で取り戻そうとするチャイニーズ・マフィア。両組織を天秤にかけ、より多くのカネをせしめようとする悪徳警官。メイを救ったため三つの組織から狙われることになるものの、敵は過去の因縁絡み、猛攻をかけるルーク・ライト。四つ巴の闘争が大都市を舞台にハイテンションで繰り広げられるのである。
とにかくニューヨークで行われた屋外シーンのロケ効果が素晴らしく効いている。まさに代替不可能な風景の中で、ハードで目まぐるしいアクションがこれでもかとばかり展開するのが興奮ものだ。地下からブルックリン・ブリッジに出たメトロの天井を渡っていくルークの姿を遠景で捉えるショットなど、どこかニュー・シネマの影響を受けた1970年代のアクション映画を観ている気にさせる。ディーヴォのマーク・マザーズボウが手掛けるパーカッシヴな音響とひりつくノイズ、'70年代から業界トップにいるアン・ロスの衣装デザインもそんな時代の空気感をいや増すわけ。
こりゃあ間違いなく、監督のボアズ・イェーキンの趣味だろう。少年麻薬売人の社会派ドラマ『フレッシュ』、出自であるユダヤ人コミュニティを舞台にした『しあわせ色のルビー』、フットボールを絡めた脱人種差別ドラマ『タイタンズを忘れない』など、ジャンルは違えど満足度の高い演出力を持つ彼だが、アクションも充分にこなせることを証明した。宿泊客も巻き込んだ四つ巴大バトルが展開する高級ホテルのシーンにおける、大群衆の捌きようもお見事。おまけに製作はタランティーノとのパートナーシップで知られるローレンス・ベンダーである。ひたすら続く活劇に身を置く、この快楽に浸るべし!
text: Milkman Saito
監督・脚本:ボアーズ・イエキン
キャスト:ジェイソン・ステイサム、キャサリン・チェン、ジェームス・ホン、クリス・サランドン、ジョセフ・シコラ
英題:SAFE
製作年:2011年
製作国:アメリカ
上映時間:1時間34分
配給:ブロードメディア・スタジオ
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