12 11/28 UPDATE
日本の映画/映像界では、昨年あたりから「山田孝之まつり」が常時開催中だ。『荒川アンダー ザ ブリッジ』の星のかぶりもの男、『勇者ヨシヒコ』シリーズのチープすぎるドラクエ風ヒーロー、『のぼうの城』での唯一ブレない名将・大谷吉継役、文芸オムニバス『BUNGO ~ささやかな欲望~』の山下敦弘監督篇などで見せたベビーフェイスぶりが従来の山田孝之を引き継ぐものだとすると、近頃むくむくと暗雲立ち込めてきたのは、そんな"好青年"イメージを一掃する凶悪ヒールっぷり。『闇金ウシジマくん』での冷血闇金王、『悪の教典』でのセクハラ暴行教師、一片の倫理もないがなぜか人を惹きつける『その夜の侍』のひとでなし......相反するキャラクターを自在に演じ分ける山田孝之の立ち位置は、特殊な存在感を放っている。
そんな「まつり」の真っただなかに登場するのが、まさに作品自体が「まつり」ともいえる『ミロクローゼ』。なんせ山田孝之ひとり三役。しかもそれぞれのキャラが極端に虚構的で、極端に振り切っている。
その一は、絵本のようにメルヘンチックな原色世界で暮らす少年、オブレネリ ブレネリギャー。ある日、公園で神々しい美女「偉大なミロクローゼ」(マイコ)に出会い一緒に暮らすようになるが......とまあ、プロローグ的なこのお話に山田孝之は出てこないのだが、絵本世界そのままな原色スタイルで山奥のひなびた温泉旅館を訪ねる、30年後のオブレネリ ブレネリギャーとして現れる。
その二は、白いタキシードに黒いサングラス、始終タバコをくゆらせた小太り男・熊谷ベッソン。「青春相談員」である彼はTV番組に出ても相談者に暴言吐き放題、ペイント施した白いキャデラックをぶっ飛ばし、若者たちの恋の悩みを豪快に解決(?)しては、どファンキーなナンバーに合わせて、70年代風ド派手ファッションのエロいナオンと踊り出す超ハイテンション男。
その三は、片目の浪人・多聞(タモン)。......といってもホントに片目なのか浪人なのかは謎なのだが。そもそも4年前は花屋の美女ユリ(石橋杏奈)に恋して結ばれ、青春を謳歌していた好青年。だが盗賊団にユリを攫われてからは人間が変わり、ユリを取り戻すためのあてなき旅に出る。それとともに世界も転変して、西部劇そして任侠時代劇の住人となるのだ。
企画から完成までに8年を要したという今回の『ミロクローゼ』も、これまでと同じく監督・脚本・美術・編集・音楽すべてを石橋が担当。国籍・地域性・民族性・アングラ・メジャー......さまざまなスタイルを大胆に折衷したプロダクション・デザイン。ビート感あふれるカッティング。DJ的ともいえるグルーヴィで綿密な音作り。映画監督であるとともに京都のアート・エンタテインメント集団「キュピキュピ」の総帥でもある石橋のアヴァンギャルド精神が爆発しまくりだ。ことに、深いパースペクティヴを持った横移動で繰り広げられる、6分間にわたる遊郭での大立ち回りは誰も見たことのない驚くべき体験。スーパースローモーションキャメラで捉えられた歌舞伎絵のような絢爛豪華さに陶然となるが、なんとこれは合成ではなくライヴ・アクションとして撮られたのだという。山田孝之が見得切ってみせる「寄り目」も本人が習得したのだとか!
このシーン、おそらく鈴木清順『関東無宿』('63)のシュールで歌舞いた殺陣を思い起こさせもするのだけれど、その鈴木清順師も出演(あまりにも無体な扱いに驚くが)。さらに壺振り師・お竜役の原田美枝子はもう無類のカッコよさ、オブレネリ ブレネリギャーを威圧する奥田瑛二も流石というしかない。この徹底的に作りこまれた超虚構的な映像とクセものキャストのなかで、一人三役を演じ抜く山田孝之の存在はやはり光っている。と同時に山田孝之という存在を消失させ、「ひとりの女性を崇拝し、妄執する」普遍的な「ひとりの男」を体現してみせてもいるのが凄い。なんでも本作、実は2009年に撮られたのだとか。今にしてみれば現在の「まつり」状態を導く山田孝之のブチ切れようは、この『ミロクローゼ』出演が契機となったに違いないのだ!
この珍妙奇抜な作品を作り上げたのは石橋義正。'97年、ウルトラ淫猥ナンセンス歌謡映画『狂わせたいの』で鮮烈に登場、 '00年代はビザール極まるバラエティ『バミリオン・プレジャー・ナイト』や、全員マネキンのブラック・コメディ『オー!マイキー』でTV界を騒然とさせた異能である。
text: Milkman Saito
監督・脚本:石橋義正
キャスト:山田孝之、マイコ、石橋杏奈、鈴木清順、佐藤めぐみ、岩佐真悠子、武藤敬司、原田美枝子、奥田瑛二
英題:Milocrorze:A Love Story
製作年:2011年
製作国:日本
上映時間:1時間30分
配給:d-rights
2012年11月24日劇場公開!