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007 スカイフォール

007 スカイフォール

ダニエル・グレイグ演じるジェームス・ボンド、待望の第3作目

12 12/20 UPDATE

「君の趣味は何だ?」
「"復活"だ」
復活。レザレクション。捕えられたジェイムズ・ボンドは、敵役ハビエル・バルデムにこううそぶいてみせる。

そう、007は何度も何度も"復活"してきた。初代ショーン・コネリーから数えて、現在のダニエル・クレイグは6代目。その代替わりこそがいわば"復活"だともいえるだろう。マンネリに陥れば、時代に合ったボンド・イメージに幾度となく更新し、そのたび "復活"を遂げてもきた。しかし2012年、シリーズ開始から50年のアニヴァーサリー。007映画は本作で、ほんとうに見事な、真の"復活"を見せてくれる。

古くからの007ファンの一部は、この映画の「映画らしさ」に戸惑うかも知れない。というとヘンないい方になってしまうが、007映画は一個のジャンルとして確立されすぎて、血の通ったキャラクターとか、がっつりした演技の濃度とか、あるいは映像美だとか、まあ、通常の映画なら当然求められるような要素が、「伝統」の名のもとに二の次にされがちだったと思うのである。そんなクリシェ的思考からまず改革しようとする意気込みが素晴らしい。

今回の監督はサム・メンデス。映画界では『アメリカン・ビューティー』『ロード・トゥ・パーディション』『ジャーヘッド』『レボリューショナリー・ロード』『お家を探そう』......とクールな視点を持つアメリカ文化の観察者といった印象だけど、思えばこのヒト、英国人なのである。結果的に言って、シリーズ中もっとも「作家の映画」になっているのは疑う余地がない。

各国に潜入するMI6のスパイたちのデータを盗んでネットで公表し、彼らを抹殺せんとするシルヴァ(ハビエル・バルデム)はもともとMI6の敏腕スパイ。ボンドと同じくMのもとで働いていたが、Mに見捨てられて命を落としかけ、復讐に燃えるテロリストとして生還したという設定だ。ボンドもまた、敵と揉みあううちMの射撃命令によって命を落としかけ、一時は酒と女に明け暮れた果てに帰還する。言うまでもなく、ここ7作品のM役はジュディ・デンチ、女性である。ともに彼女に裏切られながらも彼女を "Mother""Mommy"と呼びながら、片方は屈折した愛を殺意に転じて心中する覚悟でMを執拗に狙い、片方はMの危険を知って現場復帰し守り抜こうとする。つまりはこの映画、Mという母をめぐる二人のマザコン息子の物語なのだ。愛し、憎みあう家族を描きつづけるサム・メンデスらしい映画ではないか(『グラディエーター』で父子の愛憎を描いたジョン・ローガンらしい脚本だともいえる)。また、このところサム・メンデスと組んでいる名キャメラマン、ロジャー・ディーキンスの映像美はどうだ。逆光とシルエットを多用し(上海の高層ビルの格闘シーンのクールさ!)、終盤の舞台となるスコットランドの大地、極端な光と闇のなかでのアクションなど、ハイクオリティなテクニックを見せつける。この徹底したこだわりは、サム・メンデスにとっても『ロード・トゥ・パーディション』以来だろう。

それだけで僕としては大満足なのだけれど、なるほど「映画」としての質は高いとして、007らしいユーモアやお遊び精神に欠けるのではないか? とお思いのアナタ。まあ、確かにシリアスな作品ではあるが、それは007がダニエル・クレイグになってから共通するムード。本作はただハード志向なだけでなく、ちょっとサーヴィス意識過剰なほどの50周年感謝祭的映画でもあるってのが嬉しいじゃないか! なんでもサム・メンデスは、007映画の年季の入ったファンであるというけれど、これほどアクション勘に優れているとは正直思わなかった。アヴァンタイトルで展開される大アクションのスムーズさからして惚れぼれするのではあるが、とりわけ後半の展開はシリーズのファンなら大興奮。ボンドもハイテクガジェット群から離れ、故郷の大地へと帰還して、あえてローテク極まる戦略でもってシルヴァたちと対峙する。これは新しい007映画のありかたを大胆に模索したものであるとともに、シリーズの原点へと帰還するべく周到に企まれた作品でもあるのだ!

text: Milkman Saito

監督:サム・メンデス
脚本:ニール・パービス
キャスト:ダニエル・グレイグ、ジュディ・デンチ、ハビエル・バルデム、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリス

英題:007 SKYFAL
製作年:2012年
製作国:イギリス・アメリカ
上映時間:2時間23分
配給:ソニー・ピクチャーズ

http://www.skyfall.jp/site/

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