12 12/21 UPDATE
年に一本、映画を作り続けることがもはや生きることと同義であるようなワーカホリック映画人ウディ・アレン。ま、これはクリント・イーストウッドにも当てはまるけど、どちらもその創作意欲に限界というものはないようだ。つか、いったいどうなってんだ、このジイさんたちの頭の中(プラス精力)。
だから監督作だけでもう40作を超えるわけだが、ウディ映画には「黒ウディ」とも言うべき地獄の系列がある。もっとも、毒っ気のないウディ映画など一本たりともないワケで、すべて人生への諦観に満ちみちているのだけれど、なかでも特に、偽悪的に過ぎるほどに真っ黒な映画というのがある。たとえばそれは『ウディ・アレンの重罪と軽罪』『夫たち、妻たち』『地球は女で回ってる』といったもの。うすうす感じてはいたとしても普通の人間なら決して認めたくない真実......「人間のすべての営為はとりたてて意味もない」ことをしれっと嗤ってみせるシニカルなコメディ群だ。
まさに本作は、そんな「黒ウディ」の典型的作品。ご丁寧にも、映画の最初と最後に念を押すように引用される「マクベス」の台詞「人の生涯は動きまわる影に過ぎぬ。あわれな役者だ、ほんの自分の出番のときだけ、舞台の上で、みえを切ったり、喚いたり、そしてとどのつまりは消えてなくなる。白痴のおしゃべり同然、がやがやわやわや、すさまじいばかり、何のとりとめもありはせぬ」(福田恆存訳)......この救いがなく、虚無的で、しかし喜劇的な世界観を、ウディは崩壊した二組の夫婦のあいだに巻き起こる四つの恋愛譚として描いてみせる。
不意に噴き上がった死の恐怖から、狂ったように肉体トレーニングに励んだあげく40年間連れ添った老妻と一方的に離婚。もと娼婦のアバズレ女と再婚するアルフィ(アンソニー・ホプキンス)。その別れた妻ヘレナ(ジェマ・ジョーンズ)はショックから立ち直れず、ウサンくさい占いおばさんにべったり依存してしまう羽目に。
そんなアルフィとヘレナの娘・サリー(ナオミ・ワッツ)は、処女作で才能が枯渇した一発屋作家の夫・ロイ(ジョシュ・ブローリン)に愛想を尽かしかけ。勤務するギャラリーのオーナー (アントニオ・バンデラス)からのジェントルな態度にクラッときて、一方的に愛されモードに突入。いっぽうロイは、窓の向かいのアパートのエギゾチックな美女(フリーダ・ピント)にちょっかいを出し......。
とにかく彼らは一様に幸せになりたくて不恰好にあがいているのであるけれど、その必死さにはいささかの温度差がある。とりわけ極端な行為に走って、本来の自分のありかたを見失ってしまうのはアルフィとロイ、ウディはそんなおっちょこちょいたちには身もフタもない生き地獄を用意する。もう苦笑するしかない底意地の悪さなのだ。ウディ映画史上最大のヒットとなった次作『ミッドナイト・イン・パリ』(日本公開は前後したが)とまるで対を成すように真っ黒だが、このどちらもが「ウディ・アレン」の姿だということを思い知るべきだろう。
ちなみに原題は「あなたは背が高くてダークな見知らぬ人に会うでしょう」というもの。占いおばさんがヘレナに、"そのうちカッコいい男が現れるよ"となだめすかすお告げに由来する。でも『ウディ・アレンの愛と死』や『地球は女で回ってる』を経たウディ好きなら、この「背が高くてダークな見知らぬ人」が、明らかに「死神」をイメージさせることに気づくはずですよね。......南無阿弥陀仏。
text: Milkman Saito
監督:ウッディ・アレン
キャスト:アントニオ・バンデラス、ジョシュ・ブローリン、アンソニー・ホプキンス、ジェマ・ジョーンズ、フリーダピント
英題:You Will Meet a Tall Dark Stranger
製作年:2012年
製作国:アメリカ・スペイン
上映時間:1時間38分
配給:ロングライド
http://koino-london.jp/
TOHOシネマズシャンテにて公開中
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