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なんだか知らないけど最近ゾンビさんの出番、やたらと多くありませんか? ま、僕はホラー好きだし、中でもゾンビは無類の好物だからぜんぜん食傷しないし、こんなに溢れかえったって、アメリカや日本はもちろんキューバや台湾からも思いがけぬ秀作が現れたりするのが懐深いじゃありませんか。御大ジョージ・A・ロメロのリヴィングデッド・サーガを持ち出すまでもなく、モダン・ホラーにおけるゾンビってのは今なお社会の写し鏡であって、いくらでもその時代の面白さを仮託できるのが強みってものなのだ。やっぱゾンビはあなどれぬのである。
そんな"社会派ゾンビ映画(笑)"の近年のエポックといえるのは、やはり『ショーン・オブ・ザ・デッド』('04)。この一作でもって以後快進撃をはじめるエドガー・ライト監督+サイモン・ペッグ&ニック・フロスト主演のゾンビ・コメディだ。ロメロが『ゾンビ(=「ドーン・オブ・ザ・デッド」)』('78)で、死してなおショッピングモールに集まってくるゾンビたちを描いて消費社会に骨の髄まで慣らされ腐らされたアメリカ国民を皮肉ったように、エドガー・ライトらが描いたのは死してなおバーにたむろってくるロンドン労働者階級の方々。なんだ、そんなの生きてたときと同じじゃん、つまりロンドンはハナっから生ける屍だらけだろ? と自嘲したのである。
この『ロンドンゾンビ紀行』......て言ったって「紀行」要素はゼロなんだが(笑)、これも『ショーン・オブ・ザ・デッド』へのシンパシー絶大な作品。なんせ原題は「コックニーズ vs ゾンビーズ」、つまりロンドン下町の住人 vs ゾンビ軍団の戦いを描く、って趣向なのだ!
労働者階級が大勢を占めるイースト・エンド。ロンドン・オリンピックのにわか景気を目論んでであろう、この下町の不況に付けこみ買収して、富裕層向けマンションを建設しようというアコギな会社がある。その建設現場で見つかったのがカタコンベ(地下墓所)、もちろんそこにゾンビがいて、たちまち皆さん噛み食われちゃうってワケ。高台からゾンビ歩きでゆらゆら近づいてくる奴ら(コレって『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』('68)のオマージュね)を双眼鏡で発見するのは、そのアコギな会社に土地権益を持ってかれた「ボウ・ベル老人ホーム」のスケベじいさんだった。一方、そこに祖父も入居してるマクガイヤ兄弟は義憤の念に駆られ、老人ホームを買い戻すべく銀行強盗を実行する。仲間はオトコ勝りの従妹とムショから出てきたばかりのドジな悪友、そして理性の効かない銃器バカ。なんとか襲撃は成功したものの、警察よりもやっかいなゾンビの群れに囲まれて...。
という具合に、二つの局面が並列して描かれるうちは『ショーン・オブ・ザ・デッド』になれそうでなれない、中の上クラスのゾンビ映画といっていい。ところが孫っ子たち(+銀行から連れてきた"人質"たち)とホームに立てこもった老人たちが合体してからは、まさに"血"沸き "肉"躍る大殺戮スプラッタと化し、テンションもぐーんと上がるのである! ことに熱血コックニー魂を爆発させ、スラングと四文字言葉まくし立てながらゾンビをぶっ殺しまくる下町ジジババの吹っ切れようは爽快至極。面々も元ギャングのじいさん、車椅子じいさん、ゾンビと同じくらい歩くのが遅い歩行器のスケベじいさん、年甲斐もなく色気ふりまくバアさん、と個性も豊か。そしてヒーローたるマクガイヤ祖父には『スナッチ』等のコワもて名優、アラン・フォード、ヒロインにはなん『ゴールドフィンガー』の伝説的ボンド・ガール、プッシー・ガロアことオナー・ブラックマンだったりするのもイイじゃないか。そして最後に噴出するのはロンドン下町賛歌!! だからやはりあなどれぬのだ、ゾンビ映画は。
text: Milkman Saito
監督:マティアス・ハーネー
キャスト:ハリー・トレッダウェイ、テリーラムスム、レイアラン・フォー
英題:COCKNEYS&ZOMBIES
製作年:2012年
製作国:イギリス
上映時間:1時間28分
配給:彩プロ
1月12日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
http://londonzombie.ayapro.ne.jp/
© Bishop Rock Films Limited / Cockneys vs Zombies Limited 2012