13 1/31 UPDATE
マーク・ウォルバーグはたいしたヤツだ。コイツ、生涯ボンクラ道を突き進むつもりなのだろうか? ま、けっこう難儀な私生活は一応置いておこう。「マーキー・マーク」としての、本人さえも抹消したがってる軟弱一発屋ラッパー時代も無視したっていい。とりあえず役者として、あまりにもボンクラが似合いすぎる。なーんも考えてなさそうなボンヤリした風貌だからそんなのばかりオファーが来るんだろうが。
ポール・トーマス・アンダースンの大傑作『ブギーナイツ』('97)にその要因があるのはまず間違いない。持って生まれた類まれなる巨根ゆえにハードコア・ポルノ黄金時代のスターとなった青年の栄光と凋落を描いた作品......なのであるが、あまりにもボンクラであるからして徹底して無自覚、反省や後悔の念まったくなし、という異様なまでの楽天ぶりがまたその時代の空気を反映していて素晴らしい。なんでも最初はディカプリオにオファーされたという話もあるが、ウォルバーグで正解であったという意見に異を唱えるヒトはいないだろう。
以後『スリー・キングス』('99)『PLANET OF THE APES/猿の惑星』('01)『ハッカビーズ』('04)『フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い』('05)『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』('10)と目ぼしい出演作ではみなボンクラ役。ときおり挟まれるハードな映画やお洒落な映画の印象がすっかり霞むほどにボンクラ役がしっくりくるのだ。
で、新作がまたとんでもないボンクラぶり。見た目は可愛いテディ・ベア(でも中身は完全に下卑たオッサン)が、とにかく下ネタ喋りまくるだけでなく荒淫を実践する(!!??)というコンセプトだけで爆笑だが、その "喋るテディ・ベア"、テッドの超攻め型ツッコミを受け、絶妙すぎるボケ役をこなすウォルバーグはもうボンクラの神の域。エロ可愛くて健気な恋人(ミラ・クニス)までいるのが納得できかねるほどにチャイルディッシュで社会性に乏しい35歳を完璧に演じている。
その「感性停止」ぶりを象徴するのが、クィーンの間抜けたテーマ曲(でも彼らの最高傑作じゃないの?)で有名な古典アメコミの映画化『フラッシュ・ゴードン』('80)への偏愛! 脳味噌くり抜かれたようなスペース・オペラのマッチョ・ヒーローを見事に(?)演じた一発屋俳優サム・ジョーンズまで担ぎ出してくる念の入れようだ。つまり度外れた悪趣味さこそが愛おしいこのバカ映画や、007屈指の凡作『オクトパシー』('83)に耽溺した80年代で、この主人公の精神的成長は止まってるってわけである。ちなみにマーク・ウォルバーグ的にみると、大失敗超大作の恥を上塗りした底抜けの続編『キングコング2』('86)のレンタルビデオを殺し屋軍団から必死で守り抜いた『ビッグ・ヒット』('88)のニオイを濃厚に感じるのだが。
ともあれ、彼に比べりゃ「喋るぬいぐるみの奇跡」の効力で、かつてジョニー・カースン・ショウにも出演し、ベリンダ・カーライルともヤッた(?)らしいテッドのほうがまだ大人。そんな大人こどもの迷コンビが、ブロマンスの匂いも漂わせつつ、最後にゃボンクラ男子の不滅のチカラでもってちょいとばかし涙を誘ったりもするんだからたまらない。天然だけじゃここまで演じられぬのは間違いなく、やっぱりマーク・ウォルバーグもいい俳優だなと感じさせる出来であるけれど、この映画のクリエイターでありテッドの声も快演するセス・マクファーレン、もともとTV畑の人物らしいが、ちょいと凄い才能ではないか? なんでも2013年アカデミー授賞式のMCに大抜擢されたんだとか。ちょいとひと暴れしそうな気がするぞ。ボンクラの魂がハリウッドを牛耳る日は、どうやらすぐそこに来ているようだ。
text: Milkman Saito
監督:セス・マクファーレン
キャスト:マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス、 セス・マクファーレン、ジョエル・マクヘイル
英題:Ted
製作年:2012年
製作国:アメリカ
上映時間:1時間46分
配給:東宝東和
全国順次ロードショー中