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なんと今年のカンヌ映画祭コンペティション部門公式選出作品である。海外の映画祭における三池崇史の、「作家」としての認知度は尋常ではないが、まさかこの映画がアート性の高いカンヌでノミネートされるとはなあ。前回、コンペに選ばれたアーティスティックかつ実験的な時代劇『一命』('11)とは違い、なんせハリウッドからのリメイク話が来たってぜんぜんおかしくない(ま、製作はワーナー・ブラザース映画だが)サスペンス・アクション大作なんだから。
ある朝の全新聞で、有り得べからざる事件が起きた。写真入りで、「この男を殺してください。御礼として10億円お支払いします」とあからさまに殺人教唆する両面ブチ抜き広告が出たのだ。印刷過程のキーマンを多額の金で買収し、これを実現させたのは財界を牛耳る大富豪(山﨑努)。彼は愛孫を連続幼女レイプ殺人犯・清丸(藤原竜也)に惨殺されたのだ。
その効果はすぐに出る。福岡に潜伏していた清丸が、匿ってくれていた人物に殺されかけ、福岡県警に自首してくる。東京の警視庁に移送するため選ばれたのがSP (大沢たかお&松嶋菜々子)と捜査一課 (岸谷五朗&永山絢斗) の精鋭、そして福岡県警のヴェテラン(伊武雅刀)。さまざまな危険を考慮して陸路を選んだ5人、何台もの護送車を用意し、カムフラージュして搬送を開始する。
しかし報奨金は10億円、失敗しても富豪のコンツェルンに多額の金で雇われると判ってからは、なんせこの不景気だ、市民だけでなく身内の警官や機動隊まで捨身で襲ってくる。しかも富豪の用意した削除不可能なサイトには、数人しか知らないはずの現在位置がなぜか逐一アップされていた!......ということは、"クズ人間の弾除け"となったこの5人のうちの誰かが?
サイコ・スリラー、心理スリラー、パニック映画、復讐もの、警察もの等々、映画は物語が進むにつれさまざまな顔が見えはじめ、どう展開するのか皆目判らぬ面白さ。エンタテインメント的貪欲さに満ちた三池演出に圧倒されるが、その根底には「殺人行為には経済的な要素が大きく関与する」という社会的側面もある。奇しくも同時期に公開となる、ブラッド・ピットが殺し屋を演じる怪作『ジャッキー・コーガン』('12、アンドリュー・ドミニク監督)もそれを主題としており、世界的不況下の犯罪映画を斜から眺めるのも一興だ。
この原作者は木内一裕。小説家としても著名なので、いまや言うまでもないことかも知れないけれど「きうちかずひろ」と書けば誰もが頷くだろう、ヤンキー漫画のエポックとなった「BE-BOP-HIGHSCHOOL」の作者だ。のみならず、'90年代には映画監督に進出。自分の代表作を冷酷なまでのヴァイオレンスものに改変した『BE-BOP-HIGHSCHOOL』('94)はじめ、数本の骨のあるフィルム・ノワールを作りあげ映画ファンを瞠目させた過去もある。思えば三池ときうちは同じVシネマのフィールドで、1991年に監督デビューした仲でもあるのだな(三池は『突風!ミニパト隊/アイキャッチジャンクション』で、きうちは『カルロス』で)。
最初のカットから硬質で明確なヴィジュアルを壊さない北信康のキャメラのインパクトも凄いが、俳優陣の分をわきまえた演技にも好感が持てる。ま、極私的な見解ではありますが、大沢、松嶋、岸谷、永山、藤原と、僕としては映画的に面白いとは思えない俳優が揃っていながら、個々人のアクの強さ(あるいはアクのなさ)がほぼ均一に拮抗して、最後まで途切れることのないグルーヴを生み出しているのが素晴らしい。とりわけ藤原竜也の、この世のすべてを舐めくさったような、移送の途中でも性欲を制御できないクズ男ぶりは必見でありましょう。
text: Milkman Saito
原作:木内一裕「藁の楯」(講談社文庫刊)、監督:三池崇史、キャスト:大沢たかお、松嶋菜々子、岸谷五朗、伊武雅刀、永山絢斗、余貴美子、藤原竜也、山﨑努
英題:Straw Shield
製作年:2013年
製作国:日本
上映時間:2時間05分
配給:ワーナー・ブラザース映画
http://www.waranotate.jp/
© 木内一裕/講談社
© 2013映画「藁の楯」製作委員会
4月26日(金)新宿ピカデリー他 全国ロードショー