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シュワルツェネッガー10年ぶりの主演復帰作!......と聞いたところで、おおっ、となる人が今どれだけいるんだろうか? まあ、あれだけ一世を風靡したアクション・スターだから、『エクスペンダブルズ』シリーズみたいにほとんどなーんにもしてなくても(って、あの映画に出てる過去のアクション・スターってほぼ動けてないけど)作品に箔は付くわけだが、なんたってもう65歳だ。主演、大丈夫か?......いや、これがもう大丈夫なんである。正直シワは深く動きも鈍いが、ま、シュワちゃんはもともと敏捷ってわけではぜんぜんないし。だがそれ以上にこの映画は観る価値がある。監督が韓国の俊英キム・ジウンだからだ。
『反則王』('00)『箪笥』('03)『甘い人生』('05)『悪魔を見た』('10)等、コメディ、ホラー、フィルム・ノワール、サイコ・サスペンス、SF......と縦横無尽にジャンルを渡るフィルムメイカー。ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チェ・ミンシクといった名優たちの個性を生かし、そのうえ新しい局面を開いてみせる演出力と、凝りに凝った美術・キャメラワークが素晴らしい監督だ。とりわけタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』に先行する、華麗な映像テクニックを駆使した『グッド・バッド・ウィアード』('08)は、セルジオ・レオーネ『続・夕陽のガンマン』を本歌取りした善悪入り乱れるマカロニ・ウェスタン的アプローチで大活劇を展開してみせた。
おそらく『ラストスタンド』にジウンが起用されたのは、この作品が評価されてのことだろう。なのに本作はずばり、正統派アメリカ西部劇のスタイルに則ったものになっているのが面白い。
かつてLAPDの麻薬捜査官だったレイ・オーウェンズ(アーノルド・シュワルツェネッガー)。仲間を捜査中に失って一線を退き、メキシコ国境の安穏な町ソマートンの保安官としてようやく新しいアイデンティティを見つけたところだ。だがある日、彼の元にFBI捜査官(フォレスト・ウィテカー)から緊急の電話が入る。移送中の麻薬王ガブリエル・コルテス(エドゥアルド・ノリエガ)が仲間の助けを得て脱走、時速400キロを出せる最新鋭のスーパーカー、コルベットZR-1を操って、国境越えの途中に位置するこの町へ爆走しているというのだ。
折しもレイは部下を謎の武装集団に殺されたばかり。メキシコへの道を確保しようとするコルテスが雇った傭兵たちの仕業に違いない。しかし財力と暴力で強引に突破しようとするコルテス一派を打ち負かすだけの武器などまったくなく......。
いわばフレッド・ジンネマン『真昼の決闘』('52)と、ハワード・ホークス『リオ・ブラボー』('59)の折衷的設定。むろん、ゲイリー・クーパーであり、ジョン・ウェインであるのは我らがシュワちゃんだ。ただヒーローが孤立無援ではなく、ラティーノの副保安官(ポール・トーマス・アンダースン映画の名脇役ルイス・ガスマン)や、ヴィンテージものの私設武器博物館をやってる変わり者(『ジャッカス』のジョニー・ノックスヴィル)ら無性に陽性な仲間たちに囲まれていたり、出てくる女性がチョイ役までみんな美形、というのは明らかにホークス的嗜好。おまけに若いときは娯楽西部劇にいっぱい出ていたハリー・ディーン・スタントンが、一瞬で消える無体な扱いにも関わらずエンドクレジットにも表記されないカメオ出演ってのもなんだか嬉しい (ま、監督にしてみれば西部劇というよりも、大好きなデイヴィッド・リンチ繋がりなのかも知れないが)。
ラストスタンド、すなわち「最後の砦」を守るための闘いはこうして始まるが、不満といえばちょいと短いことくらいか。といってしっかり107分はあるんだけど、あと30分くらいは観ていたい雰囲気なのだ(フォレスト・ウィテカーとシュワちゃんががっつり組むシーンがないのは惜しい)。まずはキム・ジウン、そしてシュワちゃんの新たなチャレンジは大成功、といったところである。ちなみに決着は銃器に頼らぬ肉体派らしく殴り合い。その間際にシュワちゃんの吐く台詞に痺れてほしい。これは「アメリカで勝負する外国人」のプライドの物語でもあるのだ!
text: Milkman Saito
監督:キム・ジウン、
キャスト:アーノルド・シュワルツェネッガー ジョニー・ノックスヴィル フォレスト・ウィテカー
英題:The Last Stand
製作年:2013年
製作国:アメリカ
上映時間:1時間47分
レイティング:R15+
提供:ポニーキャニオン/クオラス 共同配給:松竹/ポニーキャニオン
http://laststand.jp/
全国ロードショー中
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