honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

きっと、うまくいく

きっと、うまくいく

インド歴代最高の興行成績を記録した、ボリウッド映画の傑作

13 5/27 UPDATE

「インド映画」とひとくちに言っても、なにせあの国土と多言語だから地域によってぜんぜん肌合いが違う......なんてことを今まで何度書いたか判らない。この件に関しては、日本で最初に広く認識されたインド映画が、メインストリームのヒンディー語映画ではなく、『ムトゥ 踊るマハラジャ』という南インドのタミル語映画だった、というのが大きいだろうな。いや、僕はタミル語映画も大好きですよ。ラジニカーントもマニ・ラトナムもA.R.ラフマーンもタミル語圏の天才たちだし。

それでもやはり、インド映画の主流派は依然としてヒンディー語映画なのである。これがいわゆる「ボリウッド映画(いまのムンバイ、旧称ボンベイにちなむもの)」で、昨今、洗練の度を加速させているのだ。もっとも本作は'09年の大ヒット作、もうずいぶん前の映画になっちゃったが、なんだか露払い的な公開になった『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』('07)ともども、ともかく広い観客に、絶対に観られなければならない傑作中の傑作であるのは間違いない。

原題は「3 Idiots」。もう直截的に、アメリカのお笑いトリオ「三ばか大将」を意識したものと思うしかないだろう。事実、'10年のしたまちコメディ映画祭では「3バカに乾杯!」として上映された経緯もある。ま、"ストゥージズ"と"イディオッツ"では馬鹿の程度差がかなりあるけれど......しかしコレ、バカたちのお話じゃないんだよね。

出張旅行のため飛行機に搭乗した直後、ファルハーンの携帯に緊急電話が入る。離陸体制に入った機を心臓発作を装ってまで停止させ、親友のラージューを車で拾って母校であるエリート工科大学、ICEの給水塔に駆けつけた。

その電話とは「ランチョーが街に帰ってくる!」

彼こそ、権威や体制を徹底してバカにし続け、とりわけ学長からは目の敵にされていた天才(アーミル・カーン)。ファルハーンとラージューはかつて学生寮で同室になった仲。トラブルメイカーだが正義感が強く、どこまでも明るく自由なランチョーに彼らも影響を受け、いつの間にか三人まとめて「3バカ」と呼ばれていたのだ。

しかし駆けつけた給水塔には、卒業後行方不明のままのランチョーの姿はなかった。そこに居たのは、要領はいいし頭も悪くないが所詮凡人に過ぎない、かつてのランチョーのライヴァル、チャトゥルだけ。「ランチョーの今の居場所を知っている」と言い張るチャトゥルの言葉を信じるしか仕方なく、三人は遠い田舎にあるその屋敷を訪ねるが......。

これでまだ話の中間地点。インド映画はたいてい途中で休憩があって、その「入り」のタイミングなども楽しみのひとつ (だから本当は本国同様、ちゃんと休んでいただきたい)。定石通り、あっと驚く展開が用意されている。

現在と過去を往還しながら語られるのは、学歴至上主義が育んだ肥大したエリート意識と規則偏重主義の弊害、そして父権主義がいまだ強いインドで顕著な、親が子に強いる負荷の大きさ。もちろんインド映画には欠くべからざる浮世離れした美形メガネヒロイン(学長の娘!)との恋に、歌や踊りをぎっしり詰め込んで3時間なんてあっと言う間。ヒンディー語映画のクラシックへのオマージュ(有名な名作や表現上のクリシェへの言及やパロディもあり)があちこちに仕掛けられていてマニアはニヤリだが、そこで初心者に引っかかりを覚えさせるようなヤワな作品じゃない。

トリックスター的な魅力ある変人・ランチョーを演じるアーミル・カーンは、ボリウッドでも異彩を放つ個性派名優。なんと実年齢は44歳、なのに大学生を演じて不自然さゼロ! 出世主義や功利主義をノンシャランと蹴散らしていく、そんな彼のモットーが邦題「きっと、うまくいく」、すなわち「アール・イズ・ウェール」、訛を無くせば「オール・イズ・ウェル」。降りかかる困難や理不尽を勇気をもって跳ねのける魔法の言葉なのである。

ともかく、ここまで爽やかな映画、そんなにあるもんじゃない。観終ったあと、あなたもきっと「あ~る・い~ず・うぇ~る!」って叫んでると思うよ。

text: Milkman Saito

監督:ラージクマール・ヒラニ、キャスト:アーミル・カーン、カリーナ・カブール、R.マーダヴァン、シャルマン・ジョーシー
英題:3idiots
製作年:2009年
製作国:インド
上映時間:2時間50分
配給:日活
http://bollywood-4.com/

全国大ヒット公開中!
© Vinod Chopra Films Pvt Ltd 2009. All rights reserved