13 6/03 UPDATE
すっかり定着した感がある「ジャパニーズ・ホラー」というジャンル。一時期ほどではなくなったけれど、今なお膨大に作られ続けているが、そのブームの旗手となったのが中田秀夫という作家だった。言うまでもなく『リング』『リング2』でセンセーションを巻き起こしたのち、ハリウッド・リメイク版の続編『ザ・リング2』(ややこしいけれど、日本での『リング2』とは全くの別物)を手掛け、活躍の場所を海外にも延ばすようになった才人である。
そんな中田ホラーの新作の舞台は「団地」である。昭和の高度成長期の象徴ともいえ、時代を経るごとに様相が変わり、活気を失っていったこの場所。どうも最近の日本映画はこの「団地」を扱った『ふがいない僕は空を見た』『みなさん、さようなら』『中学生円山』といった傑作が続出し、団地というものを触媒にした現代史的考察を暗に求められているような気もせぬではないのだが(笑)、これもまたその系列にある一本か?と読めないこともない映画。かつて賑わいを見せ、子供たちも走りまわっていた"新しい街=ニュー・タウン"が、いまやうら寂れ、建物も朽ち、いつか土地に染みついた"因縁"が暗い憎悪の念を生者に行使しはじめる。
正直に言うと、開巻しばらくは「あれ?中田秀夫ってこんなに下手だっけ?」と僕は真剣に訝しんだのだ。クロユリ団地の402号室に引っ越してきた前田敦子演じる明日香が、彼女目線の......つまりはPOV的アングルで父母そして弟の様子を捉えるところから始まる。しかし家族との会話は表面的で白々しく、しらっとした間がやたらと空いたまま放置される。キャメラも厳密にはPOVに徹しているわけでなく、その視線は対象から微妙に外れていて気持ちが悪い。かと思えば突然、前田敦子が団地の上階から階段を降りて、ひとり敷地の中を歩いていくだけのシーンが、引いたキャメラで延々と続く。何なんだこれは? と思いながらも、徐々に物語が進展していくにつれ、このぶっきらぼうで不自然な演出は最初のカットから綿密に計算されたものだったのだ、と気づいてそれに驚く、という仕掛けなのだ。
つまりこの映画、すべてがコンセプチュアルに仕組まれている。砂場でひとり遊んでいる少年ミノル。隣室の独居老人(高橋昌也)。遺品整理清掃業者の青年(成宮寛貴)。そして明日香自身の抱える過去。なにしろ「大きな要因」が物語のすべてに関わっており、それを読み解いていくのが面白さなので詳しくは書けないのだが、前田敦子が『苦役列車』での好演に続いて、意外な当たり役だとだけ言っておこう。
ただしこの恐怖の質は、例えば「呪いのヴィデオ」といった現代メディアとは関係なく、ひたすら「人間の精神の闇」に沈潜していくという点で、日本の古典的怪談映画に近い。終盤、まるで地獄の蓋が開いたかのように延々と続くクライマックス・シーンの、その極彩色でサイケデリックな照明は、中川信夫の『東海道四谷怪談』('59)かロジャー・コーマンのエドガー・アラン・ポオものか『白昼の幻想』('67)を想わせる人工美なのである。
text: Milkman Saito
監督:中田秀夫、企画:秋元康、キャスト:前田敦子、成宮寛貴、勝村政信、西田尚美、田中奏生
英題:The Complex
製作年:2013年
製作国:日本
上映時間:1時間46分
配給:松竹
http://kuroyuri-danchi.jp/
全国ロードショー中
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