13 6/25 UPDATE
これはクライム・コメディのかなりの快作だ。監督バルタザル・コルマウクルはアイスランド人。もっとも綴りはKormakur、この読みで正しいのかどうか見当がつかず、実際ネットで調べてみれば「コルマキュル」なる、よりもっともらしい表記も目立つ。だがしかし、「アイスランド人が同国の人命を発音するサイト」ってのもありまして、それを見て...というか聞いてみれば、確かに「コルマウクル」と聞こえるんだからコレでいいんだろう。
ま、そんなことはどうでもいいが(しかもアイスランド人の名前は姓を受け継がないという。でもコルマウクルは例外にあたる一族らしく、つまりややこしい限り)、この馴染みのない名前を覚えておかなきゃね、と思わせるだけのストーリーテラーぶりを発揮してくれているのがバルタザルなのである。もともと本国ではスター俳優で、本作も自身が主演したヒット作のリメイクなんだとか。オリジナルの出来がどうなのかは未見ゆえ語りようがないし、本人は「オリジナルにインスピレーションを得た別の映画」と言っているようだけど、重層的な展開を小気味よく捌いていく手腕は相当のもの。クライム・サスペンスとはいえ、シリアス一辺倒でないのはコイツが主役ってだけで明らかなマーク・ウォルバーグをはじめとする、クセ者ぞろいのキャスティングも素晴らしい。
ニューオリンズの港町。かつて腕利きの運び屋として裏街道に名を馳せたクリス(マーク・ウォルバーグ)は、妻(ケイト・ベッキンセール)と子供たちのために足を洗った身。しかし、その妻の弟アンディ(デイヴィッドの息子、ブランドン・クローネンバーグの『アンチヴァイラル』でいい病みっぷりを見せたばかりのケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)がコカイン密輸に手を出したものの、税関の急襲にビビってブツを海に捨てちまった。当然怒ったのは依頼主。粘着質の麻薬密売人ブリッグス(妙な訛で凶暴性を噴出させるジョヴァンニ・リビジ)から、2週間以内に全額返済しなければ家族を皆殺しにすると迫られ、クリスは仕方なく、でも内心ウキウキと「仕事」に戻るのを決意。親友セバスチャン(ベン・フォスター。真人間の役をほぼ演ったことないいんじゃないかと思える役者だからね...)に妻子を託し、選りすぐった多国籍クルーとともに大型貨物船に乗船。千五百万ドルのニセ札を受け取るため、パナマへ向かうが......。
親の代から忌み嫌われてる船長(J・K・シモンズ)の目をかいくぐり、密輸プランを着々とクルーと進めていくクリス。だがニューオリンズではブリッグスが手荒に妻子を脅迫しはじめる。パナマに到着するや、船を偽装事故に追い込んで時間を稼ぎ、その間にブツを受け取りに街中に走るクリスたち。しかしブリッグスはもっとカネになる"別のモノ"を買いに行け、と電話でアンディに教唆して......。
とりわけパナマに着いてからの、複数の事件が並行して展開する作劇が素晴らしい。すこぶる緊密な構成を、もうシッチャカメッチャカに掻き回すパナマの跳ねっ返りギャング(『天国の口、終わりの楽園。』等、現代メキシコを代表する俳優ディエゴ・ルナ!)の狂犬アホっぷりにも大爆笑。ここで巻き込まれるのがジャクスン・ポロックの「No.5」だってのが洒落てるじゃないか。「コメディ」だってことを観客に再確認させるようなご都合主義なオチもね。
ところでバルタザル、数カ月後に日本でも公開されるデンゼル・ワシントン&マーク・ウォルバーグ主演『3ガンズ』の監督も。まあ、期待してお手並み拝見いたしましょ。
text: Milkman Saito
監督・製作:バルタザール・コルマウクル、製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、脚本:アーロン・グジコウスキ、キャスト:マーク・ウォールバーグ、ケイト・ベッキンセール、ベン・フォスター、ジョヴァンニ・リビシ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ルーカス・ハース、ディエゴ・ルナ、J・K・シモンズ
原題:Contraband
製作年:2012年
製作国:アメリカ
上映時間:1時間49分
配給:東京テアトル
丸の内ルーブル、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国ロードショー中
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