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華麗なるギャツビー

華麗なるギャツビー

素晴らしいキャスティングとバズ・ラーマン流のド派手さにより再現された、フィッツジェラルドの世界

13 7/02 UPDATE

あまりにも有名なF.スコット・フィッツジェラルドの「ザ・グレート・ギャツビー」。1920年代ジャズ・エイジを代表する名作と認めるにもちろん僕も異存がないが、「グレート」を「華麗なる」と訳すのにはどうにも抵抗があって仕方ないんだよね。

おそらくはロバート・レッドフォードとミア・ファロウが主演した'74年の映画に倣っているのだろうが、読んでみれば判る。ロング・アイランドの豪邸にNYじゅうのセレブリティを集め、夜な夜なド派手なパーティを繰り返す主人公、ジェイ・ギャツビー。その行為自体は、虚栄に満ち、軽薄でありバブリーであり、しかもその潤沢すぎる資金がどこから出ているのかも謎であって、とても「華麗」などというポジティヴなイメージは彼にふさわしくない。

それでも、この物語の語り手役であるニック・キャラウェイは、ギャツビーを「グレート」、つまり偉大だという。ギャツビーが奢侈の裏に隠した純真な心と、夢の実現を求めてやまない狂気にも似た偏執をニックだけが知っていたからだ。インモラルな狂騒に溺れる凡人たちなら「どうでもいいこと」と一笑に付すに違いない、極めて個人的で慎ましやかな想い。"華麗"にも見える莫大な財力とエネルギーがすべて、そのささやかな記憶のために捧げられていたことを知ったからこそ、ニックはギャツビーのことを「常人には及びもつかない」という意味で「偉大」といっているのだ。

ところで今回の何度目かのリメイク作品、なんせ監督がバズ・ラーマンである。おそらくパリ時代のフィッツジェラルドも通い詰めたであろうキャバレーの物語『ムーラン・ルージュ』('01)で、その豪華絢爛なレヴューを再現......というよりはやりたい放題遊びまくって映像化した男であるから、だいたいタッチは想像がつく。パーティの画面を埋めるセレブリティたちのモードは20年代で、舞台にはキャブ・キャロウェイっぽいエンタテイナーがジャイヴを歌い踊っても、音楽はJAY-Zだったりビヨンセだったり。一応ジャズ・エイジの音楽も使われてはいるが、それもロキシー・ミュージックのブライアン・フェリー率いるオーケストラだったり。走る車はクラシック・カーでも、まるで『ワイルド・スピード』ばりのチキン・レースを繰り広げたり。

その時代をそのまま再現するより、ギャツビーの物語をリーマン・ショック以後の我々の世界の写し鏡として描こうとするバズ・ラーマンの狙いはイヤというほど判ろうってもの。正直、ポップ・チューンは違和感ありまくりではあるのだが、全体的には意外にも、原作にいたく忠実に脚色されているのが驚きだ。物語の枠としても、ニックの回想録として設定されているし、なによりフィッツジェラルドの文体がもつ詩的で優美なリズムが、ニック役トビー・マグワイアの言葉によって実際に発音されることで際立ってくる。有名な締めの部分なんてやはり見事で、そこにあの「緑の灯火」が......ギャツビーがすべてを捧げた永遠の想い人、デイジーのいる対岸の邸宅の光が画面を覆うのである。3Dで。

およそこの題材で、どうして3Dなの?という疑問は誰もが持つだろう。しかしバズならきっと何か企みがあるはず!と感じる人は迷わず3D版を選んだほうがいい。全体的には奥行重視の使用だが、ことにニックの主観性が強いシーンでイマジネーションを深めているから。

なにより今回はキャスティングが素晴らしい。狂気を秘めたベビーフェイスを得意とするディカプリオだが、こんなにギャツビーが似合うとは思わなかった。「ラプソディ・イン・ブルー」のトゥッティと打ち上げ花火とともに「いよっ、待ってました!」とばかりに振り向く初登場シーンは、オカシさを超えてこりゃカッコいいわ、とさすがに認めるざるを得ない。トビーの快演は先に書いたし、トム役ジョエル・エドガートンも体育会系の"すでに終わってる男"感を全身から発散させている。そして格別なのはデイジー役のキャリー・マリガン! もう徹底して可愛いのなんの。これならギャツビーが全生涯をなげうったとしても納得がいくってものだ(ミア・ファロウじゃねえ......)。

実はもうひとり、僕が思わずエンド・クレジットで叫んじゃった人物がいる。スピーク・イージーのシーンに登場する、ギャツビーの陰の部分に大きく関与しているらしいユダヤ人・ウルフシャイム。そのフェイスといい、ゆるぎなき存在感といい、どうも似てるなあと観ているときからきになって仕方なかったのだが......やっぱり! ボリウッドの大スター、アミターブ・バッチャンその人なのだ!! なんでもバズ直々にバッチャン邸に赴き出演依頼、快諾した彼はなんとノーギャラで撮影地のシドニーまで出かけたのだという!

text: Milkman Saito

監督:バズ・ラーマン、原作:F・スコット・フィッツジェラルド、キャスト:レオナルド・ディカプリオ、トビー・マグワイア、キャリー・マリガン、ジョエル・エドガートン
英題:THE GREAT GATSBY
製作年:2012年
製作国:アメリカ
上映時間:2時間22分
配給:ワーナー・ブラザーズ映画
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