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プロットそのものは極めてシンプルな作品だ。上空60万メートル、音もなく、空気もなく、重力もない宇宙空間。画面いっぱいに映し出される青い地球。彼方のちっぽけな光点が次第に大きくなり、ゆっくりとその全貌を現すのは、地球の軌道上にあるスペース・シャトル「エクスプローラ」だ。眼下には北米大陸、ヒューストンと交信を続けながら(オペレータの声はエド・ハリス)、まだ新米の女性エンジニア、サンドラ・ブロックが、ロボット・アームに繋がれてハッブル望遠鏡を修理している。苦戦する彼女を尻目に、能天気なカントリー・ミュージックを流しながら、「新しいジェットパックのテストだよん」なんつって宇宙を楽しげに漂っているのがヴェテラン飛行士のジョージ・クルーニー。
しかし突然、地上から緊急退避命令が下る。ロシアが自国の廃棄衛星を破壊したのだが、その破片が別の衛星に激突し、連鎖反応を起こして巨大な破片雲となってシャトルの方向に猛烈な速さで向かっている、というのだ。んなこと言われたってどうしようもない。何千もの破片が襲いかかり、音もなく粉々になっていく船体。かろうじて助かったのはサンドラとジョージだが、船体からも切り離され、地球との通信も途絶え、真っ暗な宇宙空間に放り出されてしまう。命を繋げるには遠くに見える国際宇宙ステーションまで行き、そこにあるロシアの宇宙船ソユーズに乗って帰還を試みるしかない。しかし破片雲は当然、ステーションも破壊していて...。
この徹底したサヴァイヴァル劇、冒険的/実験的な試みでいっぱいだ。全編サンドラ・ブロックの一人称(に近い)キャメラ、全シーンに特殊効果、しかも多用される長回しで緊張の途切れることがない。『2001年宇宙の旅』以来の宇宙映画なのは確かだけど(ま、物語は『宇宙からの脱出』的だが)、91分の上映時間にみっちり詰まったハラハラドキドキどころじゃないサスペンス濃度はアレ以上である(もちろん『宇宙からの脱出』など足元にも及ばない)。
そして特筆すべきは3D。ここまで奥行きを重視し、緻密に計算した映画ははじめてなんじゃないか。超高速で目の前に飛んでくる破片の、つい頭を避けてしまうこと必至なハッタリ的効果はもちろんのこと。とりわけ宇宙空間と、そこに放り出された人間だけしかないショットの、その虚無感・恐怖感は凄まじい。
そんな緊迫感のカタマリのような映画にあって、サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの「軽さ」が素晴らしいのだ。ことにサンドラの、名コメディアンヌとしての持ち味がこういう作品でこの上ない輝きを放つとは! 何度も絶望的な状況に見舞われながらも生への執着を奮い立たせる役柄は、彼女本来の快活さあってのものだとさえ感じる(ま、ロシア船にはウォッカがあるとか、中国船では卓球のラケットが漂っているとかコンソールが全部漢字だとか、んなベタな、とツッコませる仕掛けもあちこちにあるのだけど)。それに彼女のプロポーションの見事さがまた効果的。やっとこさ空気を吸える状態になったとき、ようやく宇宙服を脱ぎ捨てるシーンなど、あの『バーバレラ』のジェーン・フォンダを凌ぐセクシーさ。そもそも無重力状態の空間を泳ぎ回る、その姿態は舞踊的でさえある。なんでもこれはCG処理ではなく、12本のワイヤーに彼女は繋がれて、それを名だたる操り人形師が操ったんだとか。いわば無重力の空間と、重力的存在たる人間とのあいだの軋みを、サンドラは全身で演じているのだ。
監督はメキシコ三人組......ギリェルモ・デル・トロ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと共に「スリー・アミーゴス」を自称するアルフォンソ・クアロン。同郷の撮影監督エマニュエル・ルベツキと組んで、『大いなる遺産』『天国の口、終わりの楽園』『トゥモロー・ワールド』と撮影技術の限界に挑んできたが、今回は今までにも増して、この映画のための撮影機械を開発。なるたけポスト・プロダクションに頼らぬ、リアルな画づくりを心掛けているのだ。それが完璧な科学的リアリズムに基づくものか重力表現なのかどうか知らないが、そんなことはどうでもいい。重力的存在たる我々は、重力を感じさせる肉体的表現がないとやっぱりリアリティを感じられないのよね。
text: Milkman Saito
監督:アルフォンソ・キュアロン、製作総指揮:クリス・デファリア 、ニッキー・ペニー 、スティーヴン・ジョーンズ、脚本:アルフォンソ・キュアロン 、ホナス・キュアロン、音楽:スティーヴン・プライス、キャスト:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー、エド・ハリス
原題:GRAVITY
製作年:2013年
製作国:アメリカ
上映時間:1時間31分
配給:ワーナー・ブラザース映画
全国大ヒット上映中!<3D/2D同時公開>
http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/
© 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.