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ダニエル・ラドクリフは"あのハリー・ポッター主演の"と、いまだに言われてしまうだろうが、シリーズ終了後の映画出演作選びは個性の強い、意欲的な作品が並ぶ。「ハリー・ポッター」の最中でも、イギリスの脇役俳優を描いたブラックコメディドラマ『エキストラ』で、17歳にしてラドクリフ本人の役で出演し、「ぼくはもう童貞じゃないよ」と言ったりするセルフパロディを演じていて、非常に自分を客観視できている俳優なのだ。
『ホーンズ』もフレンチ・スプラッタ・ホラーで名を轟かせ、ハリウッド進出を果たしたアレクサンドル・アジャ監督作。原作は現代を代表する、人気ホラー作家ジョー・ヒルである。だが、そんな気概がある作品にも関わらず、何か掛け金を掛け違えてしまったように、かなり迷走した怪作になっている。
幸福な恋人たち、イグ・ペリッシュ(ダニエル・ラドクリフ)とメリン(ジュノー・テンプル)。しかし一転して、場面はメリンの亡くなった場所に捧げられた蝋燭や花束が写る。一方、イグは身に覚えのない殺人の疑いをかけられ、町の住民はおろか、家族からも「メリン殺し」の犯人として白眼視されており、いまは証拠不十分で逮捕されていないだけの状態だ。イグが真犯人を必死で探そうとするなか、ある朝突然、彼の額に二本の角(ホーン)が生えてくる。すると、なぜかイグの前に立つ人々は、本音を口に出さずにいられない不思議な現象が起こるようになる。両親はうわごとのように「おまえに出ていってほしい」と言い放ち、ダイナーで働く美熟女のベロニカ(ヘザー・グラハム)が、突然イグに不利な証言を新たに訴えた理由も、イグが店に現れたとたん「嘘をついてでも、人の注目を集めたいの!」と夢見るようにつぶやいて明らかになる。
イグは他人の悪意を招く悪魔になったのか。彼の周囲には沢山の大蛇が集まり始め、手には悪魔につきもののピッチフォークが握られる。人間たちの醜い本心の数々にイグは心が荒むが、メリン殺害当日の、身近な人物たちの怪しい行動も聞き出せて真相に近づいていく。
本音というのがメリン殺しにまつわるものだけでなく、かなり素っ頓狂な性癖の告白だったりするので、映画はコメディ路線にも逸脱していく。そうやって町中の人々を訪ねてさまよう間も、イグが現代の青年の服装なのに、律儀にピッチフォークを手放さない姿も不思議さがある。
でも、ダメな映画や退屈な作品とは明らかに一線を画していて、これだけ本気で迷走するというのも珍しい事態なのだ。わたしはこの映画を絶対否定はしない。風変わりな作品に仕上がってしまっているが、沢山の人間が関わりながら、こういったものが出来上がることを、想像し楽しんで見てほしい。ちゃんとオチもついているから、大丈夫。
text: Yaeko Mana
『ホーンズ 容疑者と告白の角』
監督:アレクサンドル・アジャ
原作:ジョー・ヒル
キャスト:ダニエル・ラドクリフ/ジュノー・テンプル/マックス・ミンゲラ/ジョー・アンダーソン/ケリ・ガーナー
配給:ショウゲート
5月9日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開!
http://horns-movie.jp/
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