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シグナル

シグナル

人間ベースの発想から離れた、新たな異星人の概念としての恐怖を堪能する。

15 5/19 UPDATE

幽霊映画は相変わらずブームが続いているが、怨霊はしょせん人間の延長線上にあるものだ。死によって肉体から解放され、なぜか魂が不思議な力を発揮するにしても、人が抱く恨み、妬み、怒りの感情が増幅するにすぎない。だから幽霊の感情は想像できる。タガが外れて狂気に振りきれながらも、生前満たされなかった、もしくは死ぬとき抱いた怒りが、いわれもない人間にぶつけられたりする。関係ない人を巻き込む点では通り魔などの狂気に近いが、でもそれも「人間の狂気、正気じゃない状態」として理解できる。

でも、宇宙人はわけがわからない。異星人によるアブダクション(誘拐)などは、人間の想像が生み出したものだろうが、もし本当に宇宙人がいたら、人間の想像の埒外なことを行うのではないか。

『シグナル』はそんな不安に満ちた映画だ。

マサチューセッツ工科大学に通う、ニック(ブレントン・スウェイツ)とジョナ(ボー・ナップ)は、彼らへ挑発的な行動をとる"ノーマッド"というハッカーに翻弄されている。ニックのガールフレンドのヘイリー(オリヴィア・クック)と共に車での移動中、彼らはネバダでノーマッドの居場所を突き止めた。だが、そこは不思議な廃墟と化しており、気が付くとニックたちは無機的な隔離施設に収容されていた。防護服を着た施設の研究員(ローレンス・フィッシュバーン)らは、彼らを隣室からマジックミラーで観察し続ける。そして、ニックたちは「何か」に接触し「感染した」恐れがあるから、ここから出すことはできないと言われてしまう。

「何か」との接触後、ニックとジョナの肉体には恐ろしい変化が施されているが、それが行われた目的はわからない。本作のテーマや造形的には『第9地区』の影響を強く感じるが、映画自体はまったく別物にしあがっている。『第9地区』は同じ土地に住む、外見の違う者同士の無理解と、目的を一にした際の友情が描かれていたが、『シグナル』には「何か」の姿は現れないし、意思の疎通を図るという考えがそもそも存在しない。

それはもっと冷徹で、取り返しのつかない状態だ。一方的で説明はなく、倫理が違う異世界に取り込まれ、慈悲などもまかり通らなくなる奈落の感覚。

なんとか施設から逃亡を図った後、ジョナたちが異色の能力を発揮するシーンでのスローモーションが美しい。ぞっとするほど絶望的な状況だが、諦観の果てに溢れる未知の力は感動的ですらある。

宇宙人とのコンタクトや、友好的な関係への幻想。または地球を乗っ取るため攻撃をしてきたり、インプラントを埋め込まれて追跡観察をされるという被害意識。しかしそんな人間ベースの発想から離れた、新たな異星人の概念として、この映画の得体のしれない恐怖を堪能してほしい。

text: Yaeko Mana

『シグナル』
監督:ウィリアム・ユーバンク
製作:ブライアン・カバナー=ジョーンズ/タイラー・デビッドソン
キャスト:ブレントン・スウェイツ/ローレンス・フィッシュバーン/オリビア・クック/ボー・ナップ/サラ・クラーク
配給:ファントム・フィルム

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