15 6/02 UPDATE
リーアム・ニーソン演じる私立探偵マット・スカダーは、元々はアルコール中毒を患っていた刑事だ。だが強盗殺人犯を追跡していたとき、不可抗力とはいえ、取り返しのつかない二次被害を出してしまう。その精神的衝撃によって酒を断ち、今は私立探偵となっている。リーアム・ニーソンの疲弊したような佇まいと、仕事上の信念や正義感は持ち続けている人間味が、なんとも魅力的だ。
原作はローレンス・ブロックによる探偵小説「マット・スカダー・シリーズ」の『獣の墓』。この原作と映画化された『誘拐の掟』ほど、比べる楽しみに溢れた作品は久々かもしれない。原作から何を削り、脚色で何を付け足したか。プロットは原作に忠実ながら、さらに魅力的なオリジナリティがあることに感嘆を禁じえない。犯人グループに、原作にはいない三人目を登場させた映画は、ビジュアル的にその部分が非常に秀逸だ。
物語は、スカダーのもとに麻薬ディーラーのケニー・クリスト(ダン・スティーヴンス)から「妻を誘拐し、殺害した犯人を捜してほしい」という依頼があったことに始まる。この誘拐犯たちはケニーから身代金を奪ったあげく、妻の無残な死体を送り返してきた。麻薬売買の仲介人なだけに、警察には通報できないことも見越しての犯罪だ。スカダーは犯人たちが金より、女を虐げることが目的の快楽殺人鬼であることに憤りを覚え、犯人捜しに乗り出す。
犯人たちは新たな犯行に及び、今度もやはり麻薬ディーラーの娘が誘拐される。そこでスカダーが犯人と交渉する話術も、犯罪劇として非常にスリリングだ。この犯人たちは女をいたぶり、殺すことが最上の目的だから、被害者を殺してしまう可能性が非常に高い。それをなんとか付随する身代金に引きつけて、犯人に迂闊なことをしづらい揺さぶりをかけ、いかにして娘に手出しさせないかを、喋りながら計算していくスカダーのセリフのひとつひとつに、観客は手に汗握ることになる。
クライマックスも、小説と映画の効果を考えると非常に優れた改変が行われている。綴られた言葉を読者が時間をかけて読み、情景の喚起も委ねられる小説と、数分間でもっとも劇的に盛り上がる瞬間を、言葉ではなく映像だけで短時間に見せ尽くす映画。銃撃戦による激しいアクションのさなか、断酒会の宗教的要素の濃い、自分を見つめ直すための「12のステップ」をスカダーは思いだす。それが突発的な銃撃や、仲間の生死を前にした彼に理性を取り戻させる。
犯人のアジトにおける戦いで、映画は非情でノワールな雰囲気を漂わせる。無駄死にや、善悪の揺らぎ。暴力を制するための暴力、暴力への復讐としての暴力、正しい暴力と誤った暴力の違い。映画を見ている間は立て続くアクションに息を呑むばかりだが、終わって我に返ると、無残さや、スカダーが新たに負った業などに思い至る。改めてこの映画の複雑な重さが、純粋にアクションを楽しむ映画と深い違いを持つことを、噛みしめることになる。正統派探偵ものであり、非常に渋く、70年代のニューシネマのような香りもする、一匹狼な男の映画だ。
text: Yaeko Mana
『誘拐の掟』
監督・脚本:スコット・フランク
製作:ダニー・デビート/マイケル・シャンバーグ/ステイシー・シェア/トビン・アームブラスト
キャスト:リーアム・ニーソン/ダン・スティーブンス/デビッド・ハーバー/ボイド・ホルブルック/ブライアン・"アストロ"・ブラッドリー
配給:ポニーキャニオン
全国公開中
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