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マッドマックス 怒りのデス・ロード

マッドマックス 怒りのデス・ロード

シリーズ4作目。まさかと思うほどのシリーズ最狂作品。

15 6/18 UPDATE

1979年の『マッドマックス』1作目から、ジョージ・ミラー監督が続けて手がけてきたシリーズ4作目。ここにきて、まさかと思うほどのシリーズ最狂作品が登場した。

水も石油も尽きかけた世界。一匹狼な男マックス(トム・ハーディ)は、資源を手中に収め、カリスマ性を誇るイモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)に囚われてしまう。しかしジョーの優秀な部下である、女戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)が突然裏切りを働いた。フュリオサはジョーの若い5人の妻たちと共に脱出し、緑の土地を目指してタンクローラーを走らせる。その車に乗っていたマックスも、否応なく彼女たちに加担する羽目に。だが、ジョーの追手たちは執拗で凶暴だった......。

過剰な異形的ビジュアルと、口を開けてボーゼンと見つめるだけになってしまう、圧倒的なカークラッシュ。物語の説明のなさにも驚くが、加速していく映像に、メインの人だけわかりゃいいや!という気分に自然と追い立てられる。大勢の登場人物の相関関係を理解する必要もないし、構成は明瞭な善悪と、簡単な筋書で成り立っている。

イモータン・ジョーの配下には、彼の信者といえる青年たち「ウォー・ボーイズ」がいる。彼らはジョーによって作られた宗教観によって、英雄的な死を望み、苛烈な戦いも厭わない。本作で、おそらく後世まで愛されるであろう「なんてラブリーな日だ!」というセリフを、猛烈な砂塵に車で突っ込みながら、興奮した笑顔で叫ぶニュークス(ニコラス・ホルト)もその一人だ。だが、彼がその後どうなっていくかがとてもドラマティックだし、このニュークスに、繊細な感情の芽生えが起こる瞬間を見届けてほしい。

ウォー・ボーイズは車を運転する以外にも、車両に積まれたとても高いポール(棒)に掴まっている者たちがいたり、バイクでの転倒や、猛スピードで走行中の車から車へ飛び移ったりと、危険なアクションが多い。そのためウォー・ボーイズの役を演じているのは、スタントマンたちそのものである。つまり大量のスタントマンが常時必要であり、だったら主役級以外は吹き替えなしに、スタントマン当人が演じた方が効率の良い状態だったということだ。だから四六時中砂塵が舞い上がるなか、生身の人間が猛スピードの車に掴まって地面スレスレまでのけぞったり、転げ落ちたり、死んでもおかしくないアクションを演じている間に、同時進行で他の場所でクラッシュによる大爆発が起こったりという壮絶な映画になっている。幸いにして撮影中に死者は出なかったとのことだが、本作を見ればそれで終わったなんて奇跡のように思えてしまう。

そして、シャーリーズ・セロンが演じる女戦士フュリオサ。彼女は性奴隷として扱われてきたジョーの妻たちを連れて、自然が残っている土地を目指して旅立つ。もちろん戦士と性奴隷では生きてきた条件が違いすぎて、戦いに際し、フュリオサが他の女全員を守るという強烈な負荷がかかる。それをマックスが自然と補助する関係になっていく。愛や友情じゃなく、戦士としてその場を生き抜くために、二人は共闘することになる。一匹狼のマックスにしてみれば、権力を愛するジョーより、それに反発するフュリオサに共鳴し、手を貸すのも当然の成り行きだろう。

この映画は、後半で見事な転調を見せる。手負いになってからのフュリオサが、徐々に体から生命が薄れていくさまを見せた、シャーリーズ・セロンの鬼気迫る素晴らしさ。いまにも絶えそうな命の炎を、意志の力で必死に保ちながら、息がある限り他の女たちを守り続けようとする、肉体が虚ろになりかけて逆に心が現れるまなざし。フュリオサが涙の滲む目でマックスと見交わし、緑の土地へ行けない嘆きと同時に後を託すと訴えるような、無言ながら悲愴なあの目が、今もまぶたに焼き付いて離れない。

砂漠が陣地の、熟女から老女のアマゾネス集団で結成されている、原住民ファッションの「鉄馬の女たち」も、この映画を女のアクションとして補完する。老女がライフルをぶっ放す姿は、昔から映画でカッコイイものとして度々描かれてきたが、本作ではより踏み込んだ男女の平等さに進む。それは、か弱いと思われてきた者がそれをかなぐり捨てるとき、命をみずから危険に晒す覚悟を決めるということだ。そしてウォー・ボーイズは彼ら自身が「英雄の仲間入りをしたい」という欲望で特攻するが、マックスやフュリオサ、「鉄馬の女たち」は違う。彼らが自分の倫理や生き抜くことの大事さを知りながら、「誰かのために命を賭ける」意志は、見る者にもその命の重みを強烈に訴えかけてくる。

この映画は2時間、砂漠で強烈なカーアクションのスペクタクルが続く。車が大破し、猛スピードの車から人が転がり落ちて一瞬にして見えなくなる。爆音と炎とスピードの強烈な刺激で、頭は途中から完全に麻痺状態になる。なのに、凄まじい映像を呆気にとられて見ている最中に、突然「誰かの志に同調して、みずからの命を賭して戦う」物語が現れる。人の命の重みに違いはないはずなのに、初めて見る異様なカークラッシュの光景で痺れた脳に、この犠牲的精神が車以上の猛スピードで抉るように刺さってくるから、不意を突かれるのだ。

そのために、こんな過激で目に鮮やかな映画を見ながら泣いてしまった。全編を彩る過激なアクションの面白さからもっとも遠い、死を悼む気持ちに囚われて。それも、誰かの死の描写に立ち会い涙をこぼしている間に、加速する映画はまた次の尊い死を迎え、猛スピードでそこからも走り去る。もう、泣き止む間がなくて本当に困った。

改造車もすべてかっこいい。本編中では名前が呼ばれないこの車たちにも、すべてスペシャルな正式名が付けられている。他にも、赤い衣装でギターから火炎放射しているドゥーフ・ウォリアーをはじめとする、ゴージャスな悪役たち。本編中では名前を呼ばれないキャラや車が多いので、それらを確認するため、あとから資料を読み漁るのも楽しい。おまけに、これまでの「マッドマックス」シリーズ以上に情動もかき乱される。とにかくこの数年で出会った中でも、もっとも熱狂せずにいられない映画なのだ。だから映画を見ているあいだ中、痛切なほど思わずにいられなかった。「わたしもフューリーロードで死にたい!」

text: Yaeko Mana

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
監督:ジョージ・ミラー
製作:ダグ・ミッチェル/ジョージ・ミラー/P・J・ボーテン
製作総指揮:イアイン・スミス
キャスト:トム・ハーディ/シャーリーズ・セロン/ニコラス・ホルト/ヒュー・キース=バーン/ゾーイ・クラビッツ
配給:ワーナー・ブラザース映画

6月20日(土)公開

http://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuryroad/

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