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フレンチアルプスで起きたこと

フレンチアルプスで起きたこと

スウェーデン発の、いたたまれない気分になるシニカルなコメディ。

15 7/06 UPDATE

イヤミスや、厭な物語のドラマや映画が充実している北欧。本作もスウェーデン発の、いたたまれない気分になるシニカルなコメディだ。

フレンチアルプスでスキーをするため、バカンスにやってきた一家4人。仕事で忙しい父親のトマスはやっとまとまった休みを取ったが、妻のエバは日頃の彼の家事への不参加が不満な様子。そんななか、スキー場が大型の雪崩を防ぐために起こす人工雪崩が、予測と異なり、トマスらが昼食をとっているテラスの客たちのほうへ襲いかかる。けが人はなかったものの、トマスは咄嗟に妻と2人の子どもを置き去りにして、自分だけで逃げ出してしまった。「そんなことはしていない」というトマスだったが、iPhoneの動画はバッチリその様子を捉えていた......。

小学生の娘は反抗的であり、幼い次男はADHD(多動性障害)であることが暗に態度で示される。雪崩が襲ってくるときの4人のセリフや役割は見事だ。父親の威厳を保つために、人工雪崩の説明や事故などないはずと説明するトマス。しかし現状として実際に雪がこちらに向かってきていることを訴えるエバ。怯える娘と、パニックに陥って大声でわめきたてる息子。妻は後から家族を見捨てた夫に皮肉を言い続け、残りのバカンスはギクシャクしていく。

編集は冷ややかに、スキー場の施設を断片的に捉える。真っ白な雪にオレンジや青の無機的な原色の設備。彼らが繰り返し使うリフトなどの機械的な動きも、家族四人に愛や同情の欠落や、苛立ちや不信感といった負のリズムをもたらす。家族みんなで歯磨きをする密接さがありながら、逆にその近さが精神的負担になっていく。名誉を挽回できないトマスには、アルミ箔を噛んだときのイヤな感覚のような、人間の弱い本能や生身ではどうにもならない硬質な宿命に対峙させられているような印象を受ける。

妻のエバもトマスを責める理由があり、正当な主張をしているようだが、いささか神経質な印象だ。そしてそれが、最後に周囲のみんなを巻き込むヒステリーにまで発展していく。

このクライマックスでも誤った男らしい態度や、冷静に状況を見極める人との対称性が滑稽さを生むのだが、途方に暮れる姿がもっとも馬鹿げていながら、根源的な人間らしさに感じられる。自然の中で小賢しく考えすぎても、卑小な本能に従っても、所詮ヒトは小さな存在にすぎないというどうしようもなさ。家族も人間の集合体も万能ではなく、老若男女それぞれ、人間など恥ずかしくて居たたまれないとしか言いようがない。そんなシニカルな映画を前に、自分たちもこの登場人物の誰かであろうことに、赤面させられるような気まずい内容なのだ。あえて取り繕った体面をあばき、白日の下に晒すような北欧のイヤ物語で、冷水を浴びせられるのも面白い映画体験だ。

text: Yaeko Mana

『フレンチアルプスで起きたこと』
監督:リューベン・オストルンド
製作総指揮:ジェシカ・アスク
製作:エリック・ヘメンドルフ/マリー・シェルソン/フィリップ・ボバー
キャスト:ヨハネス・バー・クンケ/リサ・ロブン・コングスリ/クリストファー・ヒビュー/クララ・ベッテルグレン/ビンセント・ベッテルグレン
配給:マジックアワー

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© Fredrik Wenzel