15 8/06 UPDATE
スウェーデンの監督、ロイ・アンダーソン。本作は2014年のヴェネチア国際映画祭金獅子賞を獲得している。受賞を競ったライバルは、アカデミー作品賞のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。それを抑えての受賞だから、一体どんなダイナミズムやアカデミックさを持った映画かと思いきや、かなり脱力系の、真顔でシュールな笑いを繰り出すタイプの作品なのだった。
本作はひとつのストーリーがあるのではなく、39のスケッチで構成されている。一応、メインとなるキャラクターには「面白グッズのセールスマン」サムとヨナタンがいるが、彼らと関係ないコントも多い。たいていの挿話が前後と脈絡ないし、意外にちょっと前のスケッチの登場人物が、後日談的に現れたりもする。だが、基本的に物語の構造にルールらしいものはない。場合によっては18世紀の騎馬隊が現在のカフェに立ち寄ったり、過去や現在、夢まで混乱するものの、画面はあくまでも整然としている。
画面が強い統一感で貫かれているのは、じつはすべてがスタジオ内のセットで撮影されているためだ。ロイ・アンダーソンは巨大なスタジオを所有しており、まるで野外での撮影に見える何気ない道端のスケッチなども、全部作りこんだモノや書き割りである。これは、とんでもない執念がないとできないことで、金と時間と労力が膨大にかかってしまう。本作のプロデューサーのインタビューを読んでも、「ロイと仕事をできるのはすごく刺激的だが、たまにイライラする」というのもよくわかる。
だが、この妄執じみた強烈な一貫性によって、39のスケッチのすべてがアイボリーや茶灰色を基調にした色彩、風の一切吹かない風景、強烈だが一定の遠近感など、統制のとれた画面となっていて異様に気持ちがいい。個人的には男女が窓辺にいるだけのような、人生の一瞬を切り取っただけの、オチも何もないシーンが好きだ。
本作が徹底されているのはカメラも同様で、フィックスで一切動かず、部屋全体を見渡せる位置から撮影されるので、登場人物たちはどこか遠い。編集も同様で、1シーンワンカットに限定されており、つまり39のカットしかこの映画には登場しない。
これだけ映画の縛りや美術的なこだわりを見せながら、スケッチ自体はユーモラスで、見るからにバカバカしい話なども多い。映画にかける労力と、そこで語られるネタのくだらなさという落差が、緊張感を強いることなく、本作を楽しく見られる要素にしている。
だが、人類への辛辣な目線だけは見逃せない。基本的にはペーソスや、老いや負け組へのまなざしが中心となっているが、後半に現れる人間の残酷さを指摘する描写は、生半可ではない冷徹な強い睨みを感じさせる。強大な語る力があるからこそ、軽いユーモアも打ち出せる。そんな底知れぬ力を随所で匂わせる、強烈な個性を放つ作品である。
text: Yaeko Mana
『さよなら、人類』
監督:ロイ・アンダーソン
製作:ペニラ・サンドストロム
脚本:ロイ・アンダーソン
撮影:イストバン・ボルバス
キャスト:ホルガー・アンダーソン/ニルス・ウェストブロム
配給:ビターズ・エンド
2015年8月8日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
http://bitters.co.jp/jinrui/
©Roy Andersson Filmproduktion AB