15 9/04 UPDATE
母子家庭となったマギー(メリッサ・マッカーシー)とオリバー(ジェイデン・リーベラー)親子が、引っ越した一軒家。その隣に住んでいたのは、ぐうたらな不良ジジイのヴィンセント(ビル・マーレイ)だった。マギーは夫のたび重なる浮気に愛想を尽かし、オリバーを連れて逃げだして、いまはひとりで息子を養うため懸命に働いている。だが留守の間、息子の面倒を頼めるのはろくでなしのヴィンセントしかいない......。
まさにビル・マーレイあっての映画である。ヴィンセントはギャンブル好きで、借金まみれのかなり絶対絶命な状況にいる。だが彼はわがままな態度を貫き通し、鍵を無くして家に入れないオリバーをいったん預かっても、自分の流儀でギャンブルや酒場を連れまわす。いかにも俳優然とした役者なら、ワルぶったり、さも破天荒な素振りなど演じてみせたくなるところだが、ビル・マーレイの温度は低い。ほんとにただ意に介さず、自分のだらしない日課を行うために、適当な説明をつけてオリバーを付きあわせているだけに見える。こういう、洗練された真顔のユーモラスさや、かっこ悪い事態になっても惨めにならない存在感は、ビル・マーレイ以外思いつかない。
本作の基調はハートウォーミングなので、ギャグもそんなに不埒ではない。ひとりだけ、ナオミ・ワッツ演じるロシア系移民の妊婦で、売春やストリッパーをやっているダカという女性の迫力はすごいが、ダカとヴィンセントの割りきった関係も心地よい。ヴィンセントの繊細な秘密や、慣れない状況で戸惑っているマギー親子に対しても、ダカは気性の激しさを保ちつつ共存もできるキャラで、助演に回っても溌剌としているナオミ・ワッツのカッコ良さにも、改めて感じ入る。
そして、マギーを演じるメリッサ・マッカーシー。アメリカで人気を誇るコメディエンヌだが、奇天烈な蛮行を働く彼女のデブキャラを見慣れたファンにとって、本作は意外にも息子を愛するまともなシングルマザー役だ。彼女の受け身な演技というのも目新しい。また、オリバーの担任役のクリス・オダウドが満面の笑みで、異常な出来事を鷹揚に受け流していく演技もおかしい。
困っている人を助けることが、ダメな人間だと思い込んでいた己の尊厳や誇りを取り戻すことになったり、ろくでなしにも優しさを垣間見たりする、とても真っ当な映画である。しかしそのベタさを、個性的なキャスティングで中和しているので、照れずに見られる作品に仕上がっている。それぞれのキャストのファンはもちろん、デートでも気まずくならないハートウォーミングなコメディだ。
text: Yaeko Mana
『ヴィンセントが教えてくれたこと』
監督・脚本・制作:セオドア・メルフィ
キャスト:ビル・マーレイ/メリッサ・マッカーシー/ナオミ・ワッツ/クリス・オダウド/テレンス・ハワード/ジェイデン・リーベラー
配給:キノフィルムズ
9月4日(金)TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ新宿他全国公開
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