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ヒューマン・ハイウェイ

ヒューマン・ハイウェイ

極彩色なニール・ヤングの頭の中を覗く、ドラッギーな魅力のある作品。

15 9/11 UPDATE

ニール・ヤングといえば、言わずと知れた名だたるミュージシャンである。繊細な曲と細く高い歌声。音楽の世界で素晴らしい業績があるが、じつは時々映画にも関わってきている。そして今回日本初公開となる本作は、1982年のアメリカ初公開バージョンに、2014年になって再びニールが手を入れた再編集版だ。

ニール・ヤングが監督・主演というだけでも興味深いうえに、現在の日本で公開するのはとてもヤバく、しかしヤバいゆえに「今見なければどうする」と思えるテーマが登場する。細部まで徹底した箱庭のようなセットで、シュールかつ滑稽な芝居が続く様子は、ハマるか否かのかなりギリのラインでもある。色々と観客にグッと息が詰まるものを与える作品なのだ。

舞台となるのは田舎町のダイナーと、そこに隣接するガソリンスタンド。ニール・ヤングはスタンドで働く冴えないオタク風の青年で、近くには原子力発電所があり、DEVOの面々が核廃棄物処理場で働いている。ニール・ヤングとDEVOという組み合わせが意外で最高だが、ニール・ヤングは音楽面でもニューウェイブから影響を受けて、80年代の過渡期を迎えていくことになった。この劇中でのDEVOのメンバーが赤く放電していてかなりアレなのだが、時事的に恐ろしいので詳細は触れないでおく。ぜひ各自ご覧になって確認していただきたい。

このダイナーで働いているコックがデニス・ホッパー。撮影時、ドラッグでセリフもろくに言えないホッパーにDEVOのメンバーは恐れをなしたらしいが、映画は当然セリフを言えたカットをつないでいるので、そんなにホッパーも異常には見えない。逆にミュージカルシーンなど、よく振付通りにできたなと感心するくらいだし、映画自体のテンションがハイなので、キメていてもいなくても、おかしいことに変わりないというヘンな映画なのだ。そして、一瞬ホッパーがナイフをかざした場面で、奇妙なほどギラッと輝くのが印象に残ると思っていたら、それはデニス・ホッパーが本物のナイフを現場に持ち込んで、常に刃を研いでいたためらしい。

この映画は本気で振り切れているから、今見ても半端な感じがしなくてとても楽しい。チャーミングだし、再編集によって8分短くされているため、もたつくことなくスピーディーに展開する。82年という冷戦があり、世紀末を間近にして世界の滅亡をうっすら信じていた時代ならではの、明るい終末観も今となっては逆に微笑ましい(今作ったら、笑いごとではまったく済まない)。シュールなギャグもウキウキしてくる、極彩色なニール・ヤングの頭の中を覗く映画として、ドラッギーな魅力のある作品なのだ。合うか合わないかは丁半博打のようだけれど、相性が良ければとても愛おしい映画になること請け合いだ。

text: Yaeko Mana

「ヒューマン・ハイウェイ」
監督:バーナード・シェイキー/ディーン・ストックウェル
脚本:バーナード・シェイキー
製作総指揮:エリオット・ラビノウィッツ
製作:L・A・ジョンソン
キャスト:ニール・ヤング/ラス・タンブリン/ディーン・ストックウェル/マーク・マザースボウ/ジェラルド・V・キャセール

配給:キングレコード

9月12日(土)より、新宿シネマカリテほかにてレイトショー
http://yami-movie.com/humanhighway

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