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ヴィヴィアン・マイヤーを探して

ヴィヴィアン・マイヤーを探して

死後に発見された偉大な写真家の生涯。

15 10/09 UPDATE

ドキュメンタリーだが、まるでミステリーを見ているような映画である。ことの発端は2007年、シカゴの歴史を研究していた青年ジョン・マルーフが、オークションで50年代のシカゴの風景が写った大量のネガを落札したことに始まる。彼はその一連の写真を見て、芸術的に優れた作品なのではと思い始めたが、フォトグラファーのヴィヴィアン・マイヤーなる人物は、ネットで検索してもまったく名前があがってこない。彼が写真をブログにアップすると熱狂的な反響が寄せられ、マルーフは偉大な写真家を発見したのを確信する。そして改めて調べたところ、今度はヴィヴィアン・マイヤーが数日前に死亡した記事が引っ掛かった。

彼女の職業はナニー(乳母)だった。それも驚いたことに、15万枚以上も撮影しながら、写真は生前に1枚も公表されることがなかった。彼女を雇い、または面倒をみてもらった人々が語るヴィヴィアンの印象はかなり奇妙だ。背がとても高く大柄で、手を振って軍隊のような歩き方をする。わざとフランス語訛りの英語を話し、出生地や家族については絶対に明かさなかったミステリアスな女性。しかし大量に残されたセルフポートレートには自意識を感じるし、ストリートスナップにはユーモアや茶目っ気がとても溢れている。

毛皮を巻いた女性のモードな姿もあれば、舗道で黒人少年が馬に乗っている不思議な構図の写真もある。泣いている子や、カワイイ顔で笑っている子ども。路上で遊ぶ幼児たちのコートが風で膨らんだり、奇妙な毛皮の帽子をかぶっているさまを、とても目ざとく見つけてシャッターを切る。子どもたちは笑っていることが多いが、大人の被写体はたいてい怪訝そうだったりムッツリしている理由を、現役のフォトグラファーたちが解読していくのが面白い。

だが、映画は彼女が乳母をしつつ、撮影にのめり込んでいた才気溢れる様子から、徐々に暗さを帯びてくる。今は大人になった、ヴィヴィアンに乳母をしてもらった子どもたちは当時を振り返って、虐待に近い出来事や、怪しい場所に連れていかれた記憶を語る。ヴィヴィアンは散歩と称して、子どもたちを連れたまま、自分が撮影をしたい場所へ出かけていた。それはスラムや屠殺場など、常識からは外れた場所。ヴィヴィアンの偏屈な性格は、加齢によって近隣とのトラブルや常軌を逸した行為がより目立つようになり、乳母の仕事を見つけるのが難しくなっていった。結局、彼女は晩年、貧しさと狂気に蝕まれながら暮らしたことが発覚する。

ヴィヴィアンが渡り歩いた家々では、誰も彼女が優れた写真家だとは思いもしなかった。だから、誰も質問をしたことがなかった。「なぜ写真を発表しないの?」と。もし公表していたら、彼女は違った人生を送ったことだろう。しかし、彼女の気難しい厄介な気性では、注目を浴びるなんて耐えられなかっただろうことも伝わってくる。

監督は、ネガを落札した当人ジョン・マルーフと、マイケル・ムーア監督の「ボウリング・フォー・コロンバイン」のプロデューサーであるチャーリー・シスケル。本作は第87回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされた。

text: Yaeko Mana

「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」
監督:ジョン・マルーフ/チャーリー・シスケル
製作:ジョン・マルーフ/チャーリー・シスケル
製作総指揮:ジェフ・ガーリン
キャスト:ビビアン・マイヤー/ジョン・マルーフ/ティム・ロス/ジョエル・マイロウィッツ/メアリー・エレン・マーク
配給:アルバトロス・フィルム

10/10(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
http://vivianmaier-movie.com/

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