15 10/16 UPDATE
キアヌ・リーブスは『マトリックス』という、エポック・メイキングな作品のイメージが強い。しかしそれ以外の代表作も、不思議と地に足がついていない映画が多い。『コンスタンティン』のように、あの世とこの世や、天使と悪魔を取り次ぐ人間というのももちろんそうだ。そして本作も現実の世界を基盤にしているのに、殺し屋のルールについて、リアリズムの境界線が非現実寄りになっているのが、なんともキアヌ・リーブス出演作らしいのである。
キアヌが演じるジョン・ウィックは、裏社会で知られた伝説的殺し屋。いまは足を洗って、妻と穏やかな暮らしを送っていたが、彼女が病で世を去るという悲痛な出来事が起こる。妻が亡くなった直後、生前の彼女がジョン宛に送った犬のデイジーが届く。自分の亡き後を埋める存在として、妻が残してくれた大事な犬だ。
だが、ロシアン・マフィアのボスの息子であるアルフィーが、偶然見かけたジョンの車を気に入って、家まで強奪に来た挙句、無意味にデイジーを殺してしまった。妻の分身の命を奪われたことで、ジョン・ウィックの復讐の意志が固まる。
アルフィーは甘やかされた二世のため、ジョンのことを知らなかったが、父親のヴィゴー・タラソフは息子がとんでもない相手を敵に回したことに愕然とする。ヴィゴーは一流の殺し屋を雇い、組織全体で息子を守る体制に入る。それでも本気を出したジョン・ウィックは、確実に忍び入ってくる。
ジョン・ウィックの肉弾戦での効率の良さと、腕を動かした時点で照準が合っている型の決まった射撃は、本作でガン・フーというアクションになっている。過去にも『リベリオン』でガン=カタという歴史に残る二丁拳銃の戦闘術があったが、ガン・フーのキビキビとした的確さも、見ていて猛烈に快感がある。柔道のように技をかけつつ、その合間に銃弾で敵を完全に仕留める。曖昧にせず、ちゃんと脳天に撃ちこむ丁寧さと、動きは最小限で殺害をするためだけの無駄のなさが描かれていく。銃弾の装填のタイミングも艶やかで、このガン・フーだけを何時間でも眺めていたい気分になる。
殺し屋たちの中立地帯であるホテルも風変わりだ。殺し屋は狭い世界だから、たいていは顔見知りだし、もし今の仕事において標的が同宿であっても、そのホテル内での殺人は許されない暗黙のルールとなっている。殺し屋事情に通じながら、法に触れるという概念すらないように、あくまでお客として丁寧な応対をするフロントマンは、ほとんどSFに近い域だ。この辺りの地に足のついてない感覚が、キアヌ主演映画という連綿とした世界観を感じる。
ロシアン・マフィアのボス、ヴィゴー・タラソフを演じるミカエル・ニクヴィストも素晴らしい。悪役に魅力がないと、主役も映えない。その点、スウェーデン版『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』や、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でも知られるミカエル・ニクヴィストは、愛嬌や食えない人物を演じきる芸達者ぶりを見せ、強い存在感を残す。
つらい出だしであるし、詳細は書かないがジョン・ウィックには新しい出会いもある。この相手も天然の逸材だ。すでに『ジョン・ウィック2』も決定し、この秋から撮影に入るので、ぜひ一作目の本作は見ておくことをオススメする。
text: Yaeko Mana
「ジョン・ウィック」
監督:チャド・スタエルスキ
製作:デビッド・リーチ
キャスト:キアヌ・リーブス/ミカエル・ニクビスト/アルフィー・アレン/ウィレム・デフォー/ディーン・ウィンタース
配給:ポニーキャニオン
10/16(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開
http://johnwick.jp/
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