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ロブ・ホワイトによるスリラー小説『マデックの罠』の映画化。監督は2011年に冷ややかなディストピアムービー『カレ・ブラン』を手掛けた、ジャン=バティスト・レオネッティ。フランス出身だが、本作はアメリカやオーストラリアの60〜70年代に制作されていた、低予算の不条理アクションムービーを思わせる。
舞台はアメリカ南西部モハーベ砂漠。日中には気温が50度を超えるが、夜になると異様に冷え込む地帯だ。砂漠ツアーの案内役である青年ベン(ジェレミー・アーヴァイン)は、大学入学のためにこの土地を離れる、恋人レイナを見送った。そんな傷心の彼のもとに、大きな依頼が舞い込む。趣味の狩猟のためにやってきた富豪マデック(マイケル・ダグラス)のガイド役だ。しかしマデックは自分の腕に自信がありすぎた。遠い崖上に、太陽の光に重なって動いた物体めがけて発砲したが、倒れていたのは砂漠に住むベンの知人の死体だった......。地位もあるマデックは口封じのため、ベンの命も狙い始める。
ほぼ、ジェレミー・アーヴァインとマイケル・ダグラスの二人芝居で物語は進む。砂漠地帯での狩る・狩られる関係は、ロケーションが荒涼として遮るものもないため、退屈に傾きかけるが、殺された採掘業者の狂ったねぐらがアクセントとなるし、大きな岩や洞窟状の部分には隠れ場所もある。マデックは狩猟用のベンツを乗り回し、焦げつくような太陽が照り付ける中、ほぼ裸にし靴も脱がせたベンを追い立てる。彼はベンをすっかり追いつめたと思い、快適にマティーニを楽しんでいるが、本来なら死んでもおかしくない状況を切り抜けるベンの生存本能に、マデックも徐々に焦燥を覚え始める。
砂漠と人間狩りといえば、去年初めて公開された『懲罰大陸☆USA』(71年)が、まさに類似したテーマだった。さらに、オーストラリアの砂漠地帯から抜け出せなくなる『荒野の千鳥足』(71年)も、こちらはカンガルー狩りがメインだったが、深夜に車のライトを照らしたり、無垢な若者がきな臭い大人の男たちによって脱出を許されない描写は、同じニュアンスを感じさせる。マイケル・ダグラスは『追撃者』のプロデューサーも兼ねているが、これらの作品の、クールで独特な狂気を秘めた残酷さを、思い浮かべていたのではないかと想像してしまう。もう少し人間狩りに、強迫的な緊迫感があっても良い気がするが、予算や、監督にとって環境の違いも影響しているかもしれない。
91分という短さゆえに、タイトにまとめられたストーリーと、編集によってベンのユラユラする記憶が、現在の行動を喚起する編集も悪くない。そして瞳の使い方。人体の中で水を湛えて鏡のように対象が映る神秘的な、美しい器官。瞳と太陽、銃口という丸く激しい光を放つものが連なり、この映画の誌的な映像を作り上げる。ラストのあっさりした展開も個人的には好印象だ。
text: Yaeko Mana
『追撃者』
監督:ジャン=バティスト・レオネッティ
脚本:スティーブン・サスコ
出演:マイケル・ダグラス/ジェレミー・アーヴァイン
配給:ブロードメディア・スタジオ
2016年5月14日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次公開
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