16 7/07 UPDATE
『はじまりのうた』が口コミでヒットとなったジョン・カーニー監督の最新作。監督の半自伝的要素を持った、14歳の少年の恋と音楽による日常を綴った作品だ。
舞台は1985年、不況にあえぐアイルランドのダブリン。14歳のコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、父親(エイダン・ギレン)の失業によって、学費が安く規則の厳しい公立高校へ転校させられてしまう。いきなりいじめの洗礼を受けるなど散々だったが、学校の前のアパートに住む、ティーンエイジャーの美女ラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)に恋をした。コナーは勇気を奮い、モデルだという彼女に「僕たちのバンドのMVに出ない?」と誘う。それから、コナーは慌ててバンド結成のために奔走する。
このメンバーを集めるシーンが好きだ。初日からコナーの味方になってくれた、赤毛のダーレン(ベン・キャロラン)も個性的だし、個人的に一番のお気に入りはメガネで、とりあえずすべての楽器が演奏できるエイモン(マーク・マッケンナ)。彼が肩をすぼめてギターを弾く姿は渋い。ほかのメンバーも揃い、バンド名は「シング・ストリート」に決まる。そしてラフィーナを迎えたMV撮影も順調に始まった。
85年といえば、デュラン・デュランをはじめとして、ロンドンではニュー・ロマンティクス全盛期だ。コナーもニートな兄とラジオで音楽を聴くのを日々の楽しみにしている。まだ節操がないから、ホール&オーツを聞いて盛り上がったり、ザ・キュアーに寄り道したり、まさに80年代のMTVを見ていた世代には直撃の時代性がある。
校則の厳しさへの反抗もあって、化粧をし髪をカラーリングして登校するコナー。当然、鹿爪らしい校長先生からは「デヴィッド・ボウイはいらない!」「スターダストはやめろ!」と、ちょっと古い引用をされながら、洗面台に顔を押しつけられるような屈辱を味わう。だが、バンドの仲間たちとは息も合い、彼らがなかなか良いバンドに仕上がっていくのが楽しい。だが、肝心のラフィーナは年上のボーイフレンドとロンドンへ旅立ってしまう。
小さな、どん詰まり感のあるダブリンという都市。まともに稼ぐためには、ロンドンへ行かなければいけないと思いつめながら、二の足を踏んでいる人々がいる。コナーの両親の離婚も、原因を辿れば貧困に突き当たるだろう。学校で唯一開かれるシング・ストリートのライブステージ。その規模の相応な小ささも、ダブリンでの達成感の先に(もしこの土地を離れたら)という理想を想像させずにいられない。
アイルランド出身で、アイルランド映画には律儀に出演を続けるエイダン・ギレンにも感心する。『ゲーム・オブ・スローンズ』のリトルフィンガー役で、近年は世界的に知られるようになったが、以前から祖国アイルランド映画への協力を惜しまない姿勢は、気に留めていただきたい。
text: Yaeko Mana
『シング・ストリート 未来へのうた』
監督:ジョン・カーニー
製作:アンソニー・ブレグマン/マルティナ・ニランド/ジョン・カーニー
製作総指揮:ケビン・フレイクス
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ/ルーシー・ボーイントン/マリア・ドイル・ケネディ/エイダン・ギレン/ジャック・レイナー
配給:ギャガ
2016年7月9日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
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