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『ハンナ・アーレント』のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督と、主演のバルバラ・スコヴァが再びタッグを組んだ、複雑な愛とミステリーの物語だ。
歌手を目指しながらもクラブをクビになり、結婚式のコーディネイトの仕事をしているゾフィ(カッチャ・リーマン)。そんな彼女は、父から至急呼び出された。父がネットで見つけたのは、1年前に亡くなった最愛の母エヴェリンに生き写しの女性の映像だった。彼女の名はカタリーナ(バルバラ・スコヴァ)。メトロポリタン・オペラで歌う著名なプリマドンナだった。
強引な父は、ゾフィを翌日ニューヨークへさっそく送り出す。そのため彼女は同棲中の彼とのオランダ旅行を棒に振ることになり、別れる羽目になってしまうが、それ以上にゾフィを駆り立てたのは、カタリーナがあまりに母に似ているためだった。運良くメトロポリタンでは、ゾフィに好意を持ってくれたエージェントのフィリップ(ロバート・ジーリンガー)が、取り持ってくれてカタリーナに近づくことができる。そして、生きうつしの謎めいた理由が徐々に明らかになっていく。
「愛」をどう考えているかによって、この映画の好き嫌いはかなり分かれるだろうと思う。そして家族を大事にする人、親を知らずに育った人間の思いがけない寄る辺なさなど、この映画にはいくつもの原動力がある。カタリーナは栄華を誇る傲慢な女性であるが、不意にゾフィに見せられたエヴェリンの写真に動揺し、みずからのルーツに関心を持たずにいられない。ゾフィの方はカタリーナに会うために、フィリップからセックスを要求されるが、憎からず思っていたのでさらりと受け入れる。二人とも恋愛が長く続いたためしがないため、逆に波長が合うのだ。
そしてゾフィの父。彼は暴君であり、自分を愛してくれる者に対してなら、己の要求を押し通せば、相手が屈して夢や希望を捨ててくれることを利用してきた男である。もちろん、もっと深い謎もあるのだが、それは倫理的に怒る人もいるだろう。または愛とはなんと罪深くも人を虜にし、生きる支えになるかも表す。いつまで経っても枯れない愛情の神秘には、ときめき以外に憎悪もあれば、バカバカしさ、やるせなさ、そして美しさが同時にうごめいている。
真実は知らない方が良いこともあるし、知って視界の開く幸福もある。この映画はそれが複雑に交錯するが、最後まで均衡に散りばめられた優しい愛の演出が心憎い。
text: Yaeko Mana
『生きうつしのプリマ』
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
製作:マルクス・ツィンマー
製作総指揮:ヘルベルト・G・クロイバー
脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ
撮影:アクセル・ブロック
出演:カーチャ・リーマン/バルバラ・スコバ/マティアス・ハービッヒ/グンナール・モーラー/ロバート・ジーリゲル
配給:ギャガ
上映中
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