16 8/09 UPDATE
日本語タイトルの「神のゆらぎ」とは、神の気まぐれでもあるし、偶然性のことでもある。我々は連鎖的な出来事の中に宿命を見出したり、やはり恣意的でしかなかったことを感じ、一喜一憂するだけだ。
いま、世界が注目する俳優兼監督のグザヴィエ・ドランが出演を熱望した、サスペンスタッチのヒューマンドラマ。ともにエホバの証人である看護師と白血病のフィアンセ(グザヴィエ・ドラン)。愛し合いながらも慎ましい生活を送る二人だが、彼の病状は急激に悪化の一途を辿る。そんな夜更けに、彼女は飛行機事故の音を聞きつけ思わず現場へ向かう。
本作は群像劇であり、時間軸を交錯させながら、無関係な物語が進んでいく。初老のバーテンとクローク係の女は、互いに伴侶がいながら、ワゴン車の中で頻繁に愛を確かめ合う。そのころ、キューバ行きの休暇を約束しながらも、ギャンブルを止められない夫と、彼を待ちくたびれて、禁酒の誓いを破るアル中の妻。そして、過去の謎めいた過ちを償うためドラッグの運び屋となる男。
それぞれがゆっくりと破滅へと落ちていく物語。老いてから得た愛と、中年夫婦が倦怠期により喪失する愛、罪深かった愛を抱えた男が飛行場で交錯し、物語は円環を描く。ドラマは密に描かれて、ギャンブル狂の男はカジノで同類な人間たちの悲喜劇を見、エホバの証人たちはチラシ配りの最中に、バーテンに妻を奪われた男の家を訪問して、信仰を揺るがす決定的な言葉を投げかけられる。
病院内にはほかにもエホバの証人の信者がおり、互いを見張る様に厳格な生活を送っている。フィアンセの白血病は科学治療で直ることは医者も約束しているのに、彼は頑なに信仰の下に輸血を拒む。信仰によって死を選択する男。そして飛行機事故で運び込まれた、唯一生き残った身元不明の男。死を選び、愛を選び、飛行機の破片とともに大量の死が降りそそいでくる。顔もわからず、時折痙攣を起こしながらも必死に生きながらえる生存者の姿に、エホバの証人の女は動揺せずにいられない。
静かに生命の選択と、拒絶と、終わりが訪れる。吸い込まれるような、美しい構成の映画だ。
text: Yaeko Mana
『神のゆらぎ』
監督:ダニエル・グルー
製作:マリー=クロード・プーラン
脚本:ガブリエル・サブーリン
出演:グザヴィエ・ドラン/マリリン・キャストンゲ/ガブリエル・サブーリン/ジャン=ニコラ・ヴェロール/アンヌ・ドルバル
配給:ピクチャーズデプト
© 2013 Productions Miraculum Inc.