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あの世界的名作『男と女』からなんと50年。監督のクロード・ルルーシュが新たに撮りあげたのは、相変わらず二人の男と女がメインとなった、愛の駆け引きである。78歳の監督とは思えぬ男女の会話のみずみずしさや、かと思うと老境の監督らしい夢や妄想を現実とシームレスに描くような、愛嬌のある無頓着さもあって、軽やかに楽しめる作品だ。
本作の音楽は『男と女』でもコンビを組んだフランシス・レイ。物語の主人公のアントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)は、まるでレイのように、インド映画の作曲をし、録音のためにインドを訪れた映画音楽家。エキセントリックで、自己中心的で、恋愛を楽しみ落ち着くことを知らない男であり、いまもピアニストの若い恋人アリスから結婚を迫られて、困っているところだ。
アントワーヌはインドのフランス大使館の晩餐会に招かれ、隣に座ったのが大使の妻のアンナ(エルザ・ジルベルスタイン)だった。会話が弾んだ二人だが、恋の気配が漂うと、アンナは話をそらすように夫のすばらしさを讃え、妊娠願望を語る。そして、アントワーヌがずっと頭痛に苦しんでいるのを知ると、彼女はスピリチュアルな信心を持っており、不妊治療としてインドの聖母として扱われている、アンマに会う旅に出る予定だったため、頭痛が治るからと彼も旅に誘う。
「二人旅に誘う」「二人旅に同意する」時点で、危い関係は動き出している。アンナの方が駆け引きの言葉は大胆だ。しかし彼女は人妻であり、話が深まりすぎるとスルッとすり抜けていく。明らかに二人は惹かれあいながらも、一線を越えることをためらい続ける。そして会話のなかで、互いの人生哲学や宗教観などの齟齬が噴き出し、恋愛は足踏みしたままで会話は進む。でもそれが、恋に対して悩ましく思慮しながらも、同時に事が起こるまでのなんでもない時間を楽しんでいて、とても心地良いのだ。乗り物は列車を乗り継ぎ、船となって眺めは変わっていき、親密になるにつれて口喧嘩や、女の情緒不安定な涙が増えていくのも、いかにもそれも恋愛の計算のうちに入ったルルーシュの映画らしい。
プレスシートに載っていた、ルルーシュの言葉が恋愛の核心をついているので、ぜひ引用したい。
「男の冒険心というのは驚くべきものがあり、女たちは悪い男に魅力を感じ、マッチョの男たちを裏切らない。彼女たちが裏切るのは、まともで正直な男たちだ。悪い男に刺激された女たちは、瞬く間に自分の人生を賭けてしまう。尊敬できる夫をもつアンナは、人生で得られるもの全てを手に入れた女性だ。だがアントワーヌはアーティストで自由人だ。冒険の誘惑をはねのけることなんて誰にもできない。だから人は人生でハメを外す。いくら子供のように注意されてもだ。恋愛も同じで、今まで20回も恋愛を経験してきても、我々は忘れるんだ。まるで初めてのように、それぞれの恋を始めるんだ。」
久々に再会したアンナとアントワーヌの乗ったそれぞれの車が、後を追い、並走し、離れ、また未練のように接近する走りが素晴らしい。まさに二人のいまの心境を、車の走行によって見事に象徴している場面だ。
text: Yaeko Mana
『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』
監督:クロード・ルルーシュ
製作:サミュエル・ハディダ/ビクター・ハディダ/マルク・デュジャルダン/クロード・ルルーシュ
出演:ジャン・デュジャルダン/エルザ・ジルベルスタイン/クリストファー・ランバート/アリス・ポル/マーター・アムリターナンダマイー
配給:ファントム・フィルム
2016年9月3日(土) よりBunkamuraル・シネマ他全国ロードショー
http://anna-movie.jp/
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