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ダゲレオタイプの女

ダゲレオタイプの女

過去の黒沢作品も想起させる、フランスの洋館での亡霊映画。

16 10/14 UPDATE

黒沢清監督は、これまでもカンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界三大映画祭へ作品が出品され、2015年のカンヌ国際映画祭では、ある視点部門で『岸辺の旅』が監督賞を受賞。以前から海外での評価が高い監督だ。

その黒沢監督の新作『ダゲレオタイプの女』は、オールフランスロケ、すべて外国人キャスト、全編フランス語という初の試みによる作品だ。

ダゲレオタイプとは世界最古の写真撮影の方法で、モデルは長時間同じ姿勢でカメラの前に立ち、その間は動くことは許されない。そのため、モデルを固定する装置が使用されていた。黒沢監督は写真展において、この人間固定装置に興味を引かれたという。実際、拷問の器具にも見えるそれは、黒沢映画に登場すると、モデルの後頭部でねじを巻く動作によって死が招かれる不吉さが漂う。

本作は過去の黒沢作品も想起させる。映画内には二人の亡霊がいるのだが、一人は『叫』の赤いドレスを着た葉月里緒菜と、ほぼ同じ演出によって類似した動作をする。そして、この亡霊にはもうひとつ、黒沢清が強く影響を受けているジャック・クレイトン監督作『回転』(61年)も、ルーツとして挙げられるだろう。とあるカットでは(とうとうやったな)と思うと同時に、カラーでモノクロの恐怖感を越えた黒沢監督に、本歌取りの気合を見た。

そして、これはフランスに場所を置き換えた、『岸辺の旅』の延長線上の作品でもある。ロケ地が変わることで趣がより深まり、画面は滲むような暖色が印象深く包む。その効果によって、より生死の間をさまよう男女の愛の物語が、生に傾き穏やかに見える。『岸辺の海』は浅野忠信の得体のしれなさがいいのだが、日本の寒色が基調となる画面との違いが、これほどイメージを変えるのも驚かされた。

舞台となる古めかしい大きな屋敷は、部屋や場所によって恐怖の与え方が異なる。昔から海外の亡霊屋敷を舞台にした映画で恐ろしかったのが、玄関ホールに入った瞬間であり、回り階段であったのを思い出さずにいられない。ゆえに、これまでの黒沢作品の中でも、本作の幽霊はとても優美でありつつダントツに怖い。幽霊が生者に及ぼす影響も、正気を侵していくようでまがまがしさに覆われる。だが、同時にこの映画は、男女の切ない愛もあるのだ。

フランスの洋館での亡霊映画。それを黒沢清監督が見事に撮りあげたことが素直に喜ばしい。

text: Yaeko Mana

「ダゲレオタイプの女」
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
プロデューサー:吉武美知子/ジェローム・ドプフェール
共同製作:ジャン=イブ・ルーバン
出演:タハール・ラヒム/コンスタンス・ルソー/オリビエ・グルメ/マチュー・アマルリック/マリック・ジディ
配給:ビターズ・エンド

10月15日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開!
http://www.bitters.co.jp/dagereo/

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