10 2/16 UPDATE
タンゴ界の伝説的作曲家でありバンドリーダーであったアストル・ピアソラ。92年に他界した彼が遺した重要作三作がリマスタリングされて再発売される。
彼のタンゴは、いわゆる社交ダンスの伴奏となるようなものではない。今日のGotan Projectにまでつながるヌエボ・タンゴ(新しいタンゴ)の旗手であったのがピアソラなのだ。クラシック、ジャズ、ときにポップ・ミュージックとも混淆を繰り返し、タンゴ音楽の可能性領域を無限に押し広げた第一人者が彼であり、ブラジル音楽におけるジルベルト・ジルに匹敵する偉人だと言っていい。そして今回再発される三作は、キップ・ハンラハンのプロデュースにより、87年から89年に録音されたもの。ハンラハンはNO WAVE系人物でもあるゆえか、ポストモダン的クールな音像の中に「タンゴ」が展開されてゆく様は、アート・リンゼイにおけるブラジル・テーマの諸作品にも通じる感触。しかし! 特筆しておくべきは、ピアソラが「バンドネオンの名手」であるということだ。むせび泣き、軽やかに舞い、あらゆる感情を空気の振動に込めてゆくこの至芸! すべてインストゥルメンタルのこれら三枚の収録曲が、なんと饒舌なことか。
たとえばウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』で描かれたように、元来、タンゴとは「男のためのもの」だった(実際、あの映画では『The Rough Dancer~』の収録曲が使用された)。男が踊り、そしてときに男泣きするためのものだった。ピアソラは改革者であったけれども、このタンゴの原点には誰よりも忠実だった。90年に脳溢血で倒れる直前、まさに円熟の極みにてキンテート(五重奏団)を率いて熱演する彼のプレイを、とびきりのいい音で享受できるとはまさに贅沢のきわみ。とりあえず、メッシ、マラドーナ、ガウチョ!と聞けば(あ、あとボルヘスも)、ムラムラと胸に沸き上がるものがある人は、知っておいて損はない三枚でしょう。
なお通常盤のほか、シリアルナンバー入りクリスタル・ディスクの完全受注生産もあり。通常のCDに比べ、はるかに音質の良いクリスタル・ディスクでこの名盤を楽しむことも出来る。
Text:Daisuke KawasakiI (Beikoku-Ongaku)
通常盤(以下3枚):通常販売
The Rough Dancer And The Cyclical Night(Tango Apasionado) [Hybrid SACD]
Tango: Zero Hour [Hybrid SACD]
La Camorra[Hybrid SACD]
※上記すべて¥3,000[税込]
クリスタル・ディスク(個別3枚+セット販売):予約受注販売
The Rough Dancer And The Cyclical Night(Tango Apasionado) [CRYSTAL DISCs]
¥99,750[税込]
Tango: Zero Hour [CRYSTAL DISCs]
¥99,750[税込]
La Camorra[CRYSTAL DISCs]
¥99,750[税込]
The late masterpieces-The complete work on american clave[3 CRYSTAL DISCs]
¥262,500[税込]
※こちらの商品はhnyee.Storeにて販売いたします。