10 8/09 UPDATE
Chilly Gonzales、現在の音楽界の果てまで見渡しても彼ほどの「奇才」を見つけることはできないであろう。彼の最新アルバム『IVORY TOWER』は、聴いた瞬間に身震いを引き起こすようなとてつもない怪作で、そこで打たれる一音一音は、その奇才ぶりを充分に立証してくれるのである。
朋友であるFeist、Mockey、Peachesらとともに母国カナダを去り、1999年、ベルリンを拠点にエレクトロ・ヒップホップ・アーティストとしてそのキャリアをスタートしたGonzales。さらにその後パリへと拠点を移してからはFeist、Jane Birkin、Jamie Lidelle、Mockey、Katerine、Teki Latex、Housse du Racket...ら、錚々たるアーティストのプロデューサーとして暗躍する。
「アンダーグラウンドのプレジデント」だった彼の音楽を一躍世に知らしめることになったのは皮肉にも2004年に発表したインストゥルメンタルのピアノ曲集『SOLO PIANO』の世界的な評価で、そんな自身の出世作に関しても彼自身は「ジェーン・バーキンのアルバムのプロデュースで忙しかった合間に手元にあったピアノを弾いて作っただけのアルバムだ」とうそぶく。
また昨年にはギネスの「ピアノ演奏時間の世界最長記録」を更新すべくに26時間以上に及ぶライヴ演奏を果たし、見事ギネスにその名を残し、かと思えばセルジュ・ゲンスブールの伝記映画「Gainsbourg, vie heroique」ではゲンスブールのピアノを弾く手を演じる大役を果たし、自らもカメオ出演までこなしている。
そしてこれまでの"売れっ子"プロデューサーという自身のパーソナリティを否定するかのように、本作ではベルリン気鋭のエレクトロDJ、BOYS NOIZEを"プロデューサー"の座に迎え入れてニューアルバムを完成させてしまったのだ。
なんたる複雑なパーソナリティの持ち主だろう。果たしてその共犯者を迎えたアルバムは『SOLO PIANO』のエレガントさと、前作『SOFT POWER』のファンキーなポップさを併せ持ち、さらにBOYS NOIZEプロデュースならではのタメとリリースのグルーヴ感で包み込んだような、Gonzalesの集大成にして新境地へと踏み込んだ作品となっているのである。
皮肉にあふれたリリックスもさらに鮮烈に響いてくる。アルバム冒頭2曲目、ファンキーでセンチメンタルなピアノとコーラスワークの中、あの図太い声がこう歌いはじめるのだ。『俺は犬の糞、灰皿、汚いヒゲ、プロットのない映画、便座のないトイレ、ゲイ、ペイストリー、レイシスト、カプチーノ、ギロチン・ミュージアムにいる休暇中の軍人、黄ばんだ歯.........。俺は誰かって? アイ・アム・ヨーロッパ』。
3年ほど前、パリの彼の自宅の部屋を訪れて話を聞いたことがある。ベッドの脇に無造作に置かれたアンティークのピアノを弾きながら答えてくれた彼の言葉で今でも強烈にこびりついている言葉がある。──「僕はほとんどすべてのものが嫌いなんだよ(I hate almost everything)」。
驚くことにこの奇才は「ネガティヴ」なモチベーションにテコをかけて拡大したようなパワーで音楽を作っているというのである。果たしてこの「象牙の塔」からその奇人はどんな目で世界を見渡しているのだろうか。
いよいよ来月に実現することになった初の来日公演を心待ちにしながら、アルバムをリピートしている。もちろん再会のあかつきには、このアルバムに秘められた真相を本人の口から語ってもらいたいと思っている。
Text:Shoichi Kajino
Chilly Gonzales "Ivory Tower"
NOW ON SALE!
(Gentle Threat / Beat Records)
BRC-269 ¥2,200[税込]
Chilly Gonzales "PIANO TALK SHOW"
9/4(sat)
Shibuya, PLEASURE PLEASURE (03-5459-5050)
1st set
open 16:30 / start 17:15
2nd set
open 19:15 / start 20:00
adv 5,200yen / door 5,700yen
(without drink)
info : contrarede 03-5773-5061
www.contrarede.com