honeyee.com｜Web Magazine「ハニカム」

狂気的、変態的、といった文脈で語られることの多いエレクトロニック・ミュージシャン、マシュー・ハーバート。確かに、ワイングラスを歯で割ったり、ポップ・ミュージシャンのCDを叩き割ったりなど、一見奇天烈なパフォーマンスだけを見れば、そのように評されることにもうなずける。

社会的なメッセージとアイディアを込めたハーバートの三部作に渡るプロジェクト、「ONE」シリーズの最終章「ONE PIG」は、一匹の豚が誕生してから死に至るまでに発せられる音を録音し、再構成、音楽というフォーマットに落とし込んだコンセプチュアル・アルバムだ。そしてこの作品は、動物の生命を扱った音楽という内容から、動物愛護団体から抗議や声明が届くほか、メディアからはハーバートの作品の中でも特に多く前述のような表現で形容されている。

しかし、今作に関してハーバート本人はおそらく、ただ冷静に、そして的確に現代社会への問題提起を行っている。牧場の豚達が、人間に食される為だけに産み落とされ、育てられ、そして殺されていく。この、誰もが目を背けてはいるが、ごく日常的に繰り返されている事象に正面から目を向けた作品が"狂気的"と称される社会にこそ、狂気が満ちているのではないだろうか。

「ONE PIG」の制作にあたり、ハーバートは一匹の豚の誕生、生きている間、死を迎える瞬間に立ち会い、そしてその豚を食べた。全ての行程を目に焼き付け、音楽にしたのだ。その豚のこと、食卓に並ぶ食事の裏に、常に犠牲になっている生き物がいるということを忘れないように。そして、また彼らが音楽として生き続けられるように。


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