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偶然にも、ジョニ・ミッチェルの最高傑作「ブルー」を改めて聴き直しているところだった。ギターとピアノ、そして時折刻まれる控えめなリズム、最小限の音で構成された伴奏はジョニの唯一無二の歌声を最大限に引き立てている。リリースから40年が経過した今も、その楽曲は色あせないどころか、必要以上に音を重ねる、足し算的な手法で作られた楽曲が目立つ現在においては、より新鮮に、輝きを増して響いた。
そんな時に手に取ったのが、スイスのシンガーソングライター、ナディーヌ・カリーナのデビューアルバム「マジック・ボックス」だった。カラブレッセやレックス・カワバタといったテクノ/ハウス系のアーティストを排出したSTATTMUSIKからのリリースということで、このアコースティックな内容にはかなり意表を突かれたところはあったが、既に確立された独自の世界観、そして決して音を足し過ぎることなく、その美しい歌声を際立たせた楽曲には、ジョニにも通じる感性と才能を大いに感じることができた。
フィールドレコーディングされた自然音や様々なエフェクトサウンドなど、エレクトロニカ的な要素を取り入れながらも、アコースティックギターやピアノ、そしてなによりその歌声をメインに、あくまでシンプル、ミニマルに展開する本作。所々、ポップ・フィールドよりのアプローチを見せる部分もあり、それもまた独りよがりになりすぎることのない、彼女の魅力の一つとして捉えることができるだろう。
特に抜群の歌唱力があるわけではない。ただ、ジョニがそうであったように、ささやくように歌うだけで人の心を揺さぶる声を持ったアーティストが、ごく稀に現れる。ナディーヌもまさしく、そんな天性の歌声を持った一人だ。彼女達に華美な伴奏は必要ない。ただそれを引き立てる少しの音と、彼女達自身から発せられるその音さえあれば、それだけで素晴らしいのだ。
text:honeyee.com