11 11/04 UPDATE
一般的な日本のテクノ・ファンにとって、エレン・アレンといえばWIREに出演した女性DJという以外、その素性や活動というものがそれほどフィーチャーされていない、ある種ミステリアスな存在だろう。しかし本国ドイツにおいての彼女は、DJ/プロデューサーとして圧倒的な地位を築き上げているほか、自身の名を冠したアパレルブランドのデザインも手がけるなど、あらゆるステージにおいてその才能をいかんなく発揮している。
特に主催するレーベルBpitch Controlの躍進は目覚ましく、今や日本でもおなじみとなったアパラットや、先日トム・ヨークとの共作も公開されたモードセレクターといった新鋭アーティストを発掘し、スターダムへ押し上げるなど、A&Rとしての先見の明にも長けている。そして、そのエレンが次に送り出すのが、若干23歳の女性シンガーソングライター、"ディロン"だ。
今作「ディス・サイレンス・キルズ」が初となる音源化であり、日本はおろかドイツでも全くの無名である彼女。事前のインフォメーションがほぼ無い中で、名門と呼ばれるBpitch Controlからいきなりのフル・アルバムリリースであるが、その楽曲、歌声、おまけにビュジュアルを一聴、一見すれば、エレンが惚れ込んだことにも大いにうなずくことができる、驚異の才能だ。
そのトップモデルのようなルックスからは到底想像することができない、前衛的なエレクトロニックサウンドに、まるで少女のような歌声。アルバム一貫して無機質と有機質が同居したような、牧歌的でドリーミーながらどこか狂気さえも感じさせる独自の世界観が、デビュー作とはにわかに信じ難い、圧倒的なクオリティで表現されている。
今後、彼女の才能はシーンやジャンルを越えて広く認知されることになるだろうが、彼女がこれまでに培ってきたセンスと世界観が最もフレッシュな状態で表われている今こそ、多くの方の耳に届いてほしい。ジェームス・ブレイクやボン・イヴェール、ウォッシュド・アウトのデビューアルバム、そしてビョーク、M83のニューアルバムなど、豊作が続いた今年のエレクトロニック・ミュージック・シーンであるが、中でも本作「ディス・サイレンス・キルズ」は、それらを差し置いて、2011年のベスト・アルバムであると評しても過言ではない。
text:honeyee.com