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Charlotte Gainsbourg

私の歌う『カラー・カフェ』を父も気に入ってくれるといいけど…
シャルロット・ゲンスブール、初の来日公演を目前に語る

10 10/14 UP

photo: Autumn de Wild text: Shoichi Kajino special thanks: Yoko Yamada

BECKをプロデューサーに迎えたアルバム『IRM』とともにツアー中のシャルロット・ゲンスブール。
そのコンサートの様子は以前コーチェラでのライヴのレポートともにお伝えした通り。
そしていよいよ10月下旬、"歌手としての"初の来日公演を控えたシャルロット・ゲンスブールにパリの自宅で話を聞いた。

 

──
今回のアルバム制作で、BECKはどのようなスタイルであなたを歌手としてプロデュースしてくれましたか?
「そうね、ものすごく私のやりたいことを聞いてくれて、尊重してくれたわ。最初に『どんなことがやりたい?具体的なアイデアはある?』って聞いてくれた。私がやりたかったのは、彼のスタイルに染まることだった。そして一つのスタイル――たとえばバラードだけをまるまる1枚歌いたくなかった。だから2人でいろいろなスタイルを試したの。まるで散歩するみたいに、ぶらぶらと。私がいたことによってBECKが影響されたかといえば、きっと答えは『ウィ』だと思う。常にどんなことを感じているか、アイデアを少しでも提供したいと思ったし、それは私にとって重要なことだった。たぶん彼にとってもそうだと思うわ」
──
他にも印象的なエピソードなどあれば具体的に教えてください。
「一番最初にトライで一緒にスタジオ入ってみようということになったの。そこで5曲が生まれたんだけど、その中の一曲『Master's Hands』の中に"私の頭に穴を開けて"という歌詞があった。BECKは私が、脳の手術を受けていたことを全然知らずにあの歌詞を書いたんだけど、私自身は実際に"頭に穴を開けた"後だったから、なんて偶然!と思ったわ(※シャルロットは事故で頭を挫傷して手術を受けた後だった)。その後LAに戻ってレコーディングを再開した時に、ベックは私の手術のことをどこかで知ったらしくて『あの時はきみが脳の手術を受けたことを知らずにあの歌詞を書いてしまったんだけど、ごめんね』って謝られたの」
──
そもそも「5.55」の際、20年ぶりにアルバムを作ろうと思ったのはどうしてだったのでしょうか? その良い勢いが今回のアルバム、そしてツアーというあなたを「歌手としての興味」の方に引き寄せたと考えて良いのでしょうか?
「決心がつくまでには時間がかかったわ。音楽と父というものは私にとって切り離せないものだったから、その父無しで音楽をやることは私にはタブーだった。エールと一緒だったら、やりたいって思えたの。彼らにはずいぶん勇気づけられたわ。そして今作ではBECKと一緒に仕事をしたいということもアルバム作りへのモチベーションになったわ。実は『5.55』が出来上がったとき、なんだか取り残されたような気がしたの。エールのふたりはそのまま彼らのアルバムの制作に入って、私は独りでプロモーションを行った。もちろん私のアルバムだから当然なんだけど、彼らとの旅が途中で終わってしまったような気がしたの。もしもコンサートをやるのならば、彼ら無しでは考えられなかった。一応ミュージシャンを探したりもしたんだけれど、最終的にステージに上がる踏ん切りがつかなくて、そのことにフラストレーションを感じていたわ。アルバムにまつわる旅の行程を最後までこなせなかった気がして…。だから今作の制作中にベックに『ライヴ をやりたい?もうしそうなら少しアップテンポな曲も作ろう』って言われて、『そうね、たぶんやりたいと思う』って答えたの。そこから生まれたのが、 『Trick Pony』や『Greenwich Mean Time』だったの」

 

──
自分の中の女優としての面とアーティスト(歌手)としての面にはどのような違いがあると思いますか? あるいは意図して違いを心がけていることがありますでしょうか?
「映画の現場にはかならず沈黙がある。映画の現場はどちらかと言うとレコーディングに近いわね。音楽にはもっとみんなで作り上げる感じがある。特にライヴはすごく高揚感があって、映画の現場で細かいところまで気を配って作品を作り上げていく感じとは全然違って、もっと勢いが大切なの。そこがライヴの難しいところでもあって、その勢いが毎回違うから、出来も毎回違って…、私にはまだコントロールしきれないところなの」
──
例えばエールと一緒に作った前作「5.55」とBECKと一緒に作った「IRM」、歌い方やあなたのキャラクターにも違いを感じましたが、これはあなたが"演じ分けた"シャルロット・ゲンスブールなのでしょうか、それとも成長した結果の違いでしょうか?
「成長したと自分では思いたいわ。だって同じことを繰り返すのには興味がないから。エールのときは本当に手探り状態だったけど、今作はもうすこし前進したいと思ったの。次にアルバムを作る時はまた違ったことがやりたいわ」
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BECKとの仕事によってよりインターナショナルでオルタナティヴに寄った方面に活動の幅が広がったように思いますが、ご自分ではその周辺の変化をどのように感じていますか?
「あまりインターナショナルか否かっていうことには興味がないの。人そのものに興味があるから。前作よりアメリカでのセールスが上がったのは、もちろんBECKにプロデュースしてもらったおかげ。彼はやっぱりアメリカで人気があるから、その影響は大きいわ。そうやって新しい扉が開かれることには喜びを感じるけれど、それが目標ではなかったの」