honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

THINK PIECE

GRAND GALLERY 5th ANNIVERSARY

祝グランド・ギャラリー5周年。
井出靖が明かすレーベルの軌跡とビジョン

10 9/28 UP

photo & text: honeyee.com

我が道を行くスタンスで良質な音楽を世に送り出すレーベル、グランド・ギャラリーが記念すべき5周年を迎えた。先頃開催された5周年パーティには、総勢100人に及ぶ同レーベルを愛するDJ,ミュージシャンが参加、レーベルのファンと共に5周年を熱く祝福した。「音楽不況」と言われて久しい昨今、インディペンデントでありながらも、着実に音楽シーンにおける存在感を強める同レーベルを主宰する井出靖が語るグランド・ギャラリーの軌跡。

いでやすし

80年代、ヤン富田、高木完、ミュート・ビート、
いとうせいこう等と共に、現在の日本の音楽シーンを形成する音楽的動勢に深く関わったプロデューサー、アーティスト。90年代には、オリジナル・ラブ、小沢健二等のデビューを助力。近年は金原千恵子等のプロデュースを手掛ける。2005年に音楽レーベル、グランド・ギャラリーを設立。2006年にはレーベルと同名のセレクト・ショップを渋谷区宇田川町に開店。今夏、グランド・ギャラリー・レーベルが5周年を迎えた。

http://www.grandgallery.jp/

 

──
グランド・ギャラリー・レーベルが5周年を迎えました。この5年で、レーベルはどのように成長してきたと思いますか。
「レーベル設立当初、僕は元々音楽プロデューサーだったので、どのようにCDを製作して流通させるのか、それがよく分かりませんでした。そこからのスタートです。レーベルをスタートして、まず甘いレゲエのコンピ『ラヴァーズ・ロック・ナイト』を、続いてサーフ・ロックの『サーフ・タイム』やラテン・ジャズ、ハウスの『カーサ・ラティーナ』をリリースしました。僕自身の中でそれぞれの作品に特別な区別はなく、レコード店でも同じ様に取り扱われるんだろうな、と考えていたんですけど、レコード店の人から『それぞれCDを置くコーナーが違うし、正直何がしたいのか分からない』とはじめのうちは言われましたね。4枚目に『トーキョー・ラグジュアリー・ラウンジ』という日本のクラブ・シーンを代表するアーティストのコンピを出したんですけど、その作品がヒットしまして、コンピを出しやすい状況が徐々に出来てきました。少しずつですが利益も出せるようになってきたところで、『原盤権を持たないと将来レーベルに何も残らないな』と思うようになり、今では700曲くらいの原盤権を持てるまでになりました。また、レーベルを運営してきて面白かったのは、表紙に魅せられて書籍を集めるように、ジャケ写を見てバックカタログをコレクションしてくれるリスナーの方が増えていったことです。これはアート・ディレクター、小野(英作)君の力によるものですね。さらに、コンピを作る時に、新しい曲と皆が知らないような過去の隠れた名曲を混ぜることで、『新譜』という概念を取り払おうと試みてきたんですけど、それもリスナーの人たちがバックカタログをコレクションしてくれることに繋がっているのではと思います。CDが売れないと言われる時代ですが、おかげさまで好セールスが続いています。非常に嬉しいことですね」
──
渋谷宇田川町にあるショップがグランド・ギャラリー・レーベルの存在感を際立たせています。ショップでは、写真集やポスター、衣類や生活雑貨など、音楽とは直接関係ないアイテムも展開されています。そのような音楽を軸としたライフスタイル全体の提案、というスはレーベルの設立当初から考えていたんですか。
「グランド・ギャラリーは当初『ダンスミュージックやラウンジミュージックのレーベル』というイメージがあったのですが、その他の様々なジャンルの音楽も打ち出していきたいと考えていたんです。そこで、ショップが複数のフロアに分かれていることもあり、写真集やポスター、衣類や生活雑貨などのアイテムも展開しながらフロア毎に異なるテイストを作り出し、その各フロアのテイストに合った新しいレーベルを立ち上げれば、音楽とライフスタイルがリンクして面白そうだな、と考えたんですね。例えばモナコという2Fのフロアでは、ラルフローレンのヴィンテージウェアや、カリフォルニアのサーフショップのTシャツを扱っているんですけど、それらを着た人がサーフ・ロックのCDを聴いていたら格好いいな、というような感じで。各フロアとレーベルの繋がりが自然と出来てきましたね」

 

──
リスナーの人たちはグランド・ギャラリーをひとつのアーティストと捉えてCDを購入しているように思います。コンピを例にしても、コンピの編集という行為に井出さんの作家性が感じられる。グランド・ギャラリーが音楽ファンから支持されているのは、レーベルのスキームはもちろんですが、井出さんのパーソナリティがあってこそのものだと思います。
「なるほど。ただコンピは別として、アーティストものの作品を制作する場合、僕はアーティストの音楽性にあまり指示を出したりしないんですよ。デモを頂いた段階で、そのアーティストを気に入りさえすれば、『後は仕上げて下さい』という感じです。作品を制作する時は、まずアーティストに原盤権をどちら側が持つかを話して、『なるべくアーティスト側が持っていた方がいいよ』と話しています。ただ予算がかかるプロジェクトだと、アーティストが原盤権を持つのに負担がかかるので、その場合はレーベル側で持ちますけど。その話が決まれば、何を作ってもいいというカタチですね」
──
そのように作品が作れるのは、井出さんとアーティストの間に信頼関係が成立しているからこそだと思います。5周年パーティは井出さんにとって、これまでのキャリアの集大成、という感じでしたか。
「僕はあまり過去にこだわるタイプではないので、自身のキャリアを振り返ってアーティストの皆さんに出演オファーをしたわけではないんですけど、集大成ではないですが、一度くらいならあれだけ大きい規模のパーティをやってもいいんじゃないかって(笑)」

──
グランド・ギャラリーは我が道を行くスタイルのレーベルではありますが、日本のミュージシャン、DJ、音楽業界のクリエイターたちが作るムーブメントを幅広くカバーしています。5周年パーティからもグランド・ギャラリーの幅の広さを感じました。
「そうですね。僕は海外の音楽ももちろん好きですけど、日本人ミュージシャンの可能性を強く信じていますし、特定のジャンルに特化することはないんです。新鮮な音楽に触れていたい、という気持ちが常にあって、レーベル運営をしていても、より幅広い音楽を提示していきたい、という欲求が強くなっています。幅広いミュージシャンを紹介するのも、ライブハウスに新人を探しに行くわけではなくて、自然と出会える人や身近な人の才能を紹介するというカタチで。そういうレーベル運営を今後も続けていきたいですね」
──
パッケージ・ソフトのリリースが音楽レーベルの中心でなくなりつつある現在、そのような音楽シーンの変化をどのように捉えていますか。
「極端なことを言えば、CDを出さなくても、定期的にライブを開催して、そのライブを配信したりして、それで音楽シーンが成り立つなら、それでいいと思います。ただCDのようにカタチとして残せるものはやっぱり特別ですよね。なので、CDを出せるうちは出していきたいです」