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THINK PIECE

MARK RONSON

敏腕プロデューサー、マーク・ロンソンが
7、80年代のシンセ・サウンドを大胆にフィーチャーした最新アルバムをリリース

10 10/4 UP

photo: Shoichi Kajino text: Kohei Onuki

幅広い音楽ジャンルへの深い造詣を武器に多様なサウンドを作り出す敏腕プロデューサー、マーク・ロンソン。その彼がボーイ・ジョージやデュラン・デュランなどのベテラン勢からマイク・スノウ、ザ・ドラムスなどの新進気鋭のアーティストたちを迎え、最新アルバム『レコード・コレクション』を完成させた。7、80年代のシンセ・ポップを意識したノスタルジアを感じさせるサウンドと斬新なヒップホップ、ダンス・サウンドが融合した傑作を生み出したマークにインタビューを敢行。

マーク・ロンソン

DJ、プロデューサーとしてニューヨークを中心に活動。近年はJ Recordsと共同で自身のレーベル、Allidoを設立。幅広い音楽ジャンルへの深い造詣、卓越したプロデュース・センスが高く評価されている。

http://www.markronson.co.uk/jp/frontpage

 

──
今回のアルバムは、制作にあたりテーマやコンセプトはあったんですか。
「特に決まったテーマはなかったんだけど、挙げるとすれば、前のアルバムみたいにカヴァー曲は入れない、ということくらいかな。キャシー・デニスやマイク・スノウなど、このアルバムのキーになるミュージシャンたちがいて、彼らと色々模索しながら作った感じだね。作ったことがないようなサウンドを作るために、オールドのシンセを大胆にフィーチャーしたりしたよ。去年の夏、ブルックリンのスタジオに籠って作ってたんだ」
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レコーディングは主にブルックリンのスタジオで行われたんですか。
「そう。ビートから上モノまで、ボーカル以外は基本そのスタジオで録った。エイミー・ワインハウスをプロデュースした時に一緒に仕事をしたザ・ダップ・キングスのメンバーがはじめたスタジオなんだ。スタジオに入って2週間くらいは、1日12時間くらい、他のミュージシャンとジャムやインプロビゼーションをして、そこから色んなアイディアを出していった感じだね」

──
今作はオールド・シンセの音色が前面に出ている曲が目立ちますね。
「去年の夏にデュラン・デュランのアルバム制作に参加したんだけど、その時にニック・ローズのシンセ・サウンドの虜になったんだ。それで、ニューヨークに戻ってから、昔のシンセを何台か買い足したんだ。欲しかったけどレアで入手出来なかったシンセもあったんだけどね。昔のアナログ・シンセには本当に美しい質感があるんだよ。70年代にスティーヴィー・ワンダーが使っていたモーグ・シンセの有機的なサウンドをイメージしてもらえると分かりやすいかな」
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リード曲“Bang Bang Bang”のヴィデオにも多数の古いシンセが登場しますよね。あの曲は上モノの響きも印象的ですが、ビートがトラディショナルなヒップホップ・ビートからいきなり高速ビートにスイッチするところも面白いと思います。あの発想はどこから出てきたんですか。
「2007年から2008年の間にツアーをしていて、音楽フェスなどで、例えばジャスティスとか、ダンスミュージック色の強いミュージシャンたちと同じテントに入ることが多かったんだ。で、彼らが130BPMを超えるような速いテンポの曲をかけるとキッズは喜ぶよね、もの凄い勢いで動き出してさ。その光景を目の当たりにして、僕もそういう曲をひとつくらいは作りたいなって。それで完成したのが“Bang Bang Bang”。間奏をダブルタイムにしたからドラムンベースっぽくなっているんだよね。僕はDJを始めた時から色んな音楽をクロスオーバーしていたし、ヒップホップ、ダブステップ、ロックにレゲエ……色んなジャンルの音楽をひとつのくくりで捉えているんだよ」

 

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今回のアルバムには色んなジャンルのゲスト・ミュージシャンが参加していて、それはマークさんの音楽に対する姿勢を象徴しているようです。ただやはり、それぞれの曲からはヒップホップに対する愛情、ヒップホップからの影響が強く感じられます。
「僕がトラックを作る時に一番重視するのがドラムの鳴り方やビート。子供の頃からビートを重視した音楽が好きだったんだ。だからヒップホップに強く影響されて、今なおヒップホップ的なビートが自分の作品にはっきり出てくるんだよね。今回のアルバム制作で一緒に演奏したザ・ダップ・キングス、彼らはソウルのミュージシャンだけど、ニューヨークでヒップホップを聴いて育ってきた人達だから、インプロビゼーションしていると、ヒップホップに影響された僕の好みに音を合わせたりしてくれたね。僕がエイミー・ワインハウスの曲をプロデュースしていた時も、RZA(ウータン・クラン)のサンプリングを参考にしたり、ヒップホップからの影響は未だに根強くあるよ。カイザー・チーフスのプロデュースをした時は流石に、彼らの曲を思い切りヒップホップにしよう、とは思わなかったけどね(笑)」

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ところで、アルバムからのセカンド・シングル“Circuit Breaker”のヴィデオは、何故『ゼルダの伝説』風なんですか。
「“Circuit Breaker”には80年代の電子サウンドのイメージやどこか機械的なイメージがあるから、はじめはハービー・ハンコックの“Rock It”のヴィデオ(機械仕掛けのロボットが多数登場する)のようなものを作ろうと考えていたんだ。けれど、ヴィデオのディレクターが『メロディー部分がとてもロマンチックだから、ラブ・ストーリーの要素も入れようよ』って。そこで、80年代のデジタルのイメージとラブ・ロマンスの融合ということで、主人公がお姫様を救出するゲーム『ゼルダの伝説』風のヴィデオにしたんだ。80年代後半は誰もが『ゼルダの伝説』をプレイしていて、母親に宿題やりなさい!! と叱られるまで、何時間もプレイしていたもんだよ(笑)」