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THINK PIECE

VACANT

裏原宿の新たなカルチャー発信基地

10 10/29 UP

text:honeyee.com

裏原宿に位置するフリースペースVACANT。1FではアートブックやTシャツを始め、
選りすぐりの様々なアイテムが販売されており、2Fは完全なフリースペース。
ユニークなイベントが数多く企画され、これまでに展覧会や音楽イベント、
フリーマーケットや落語会までが開催されている。
来る10月31日からはVACANT代表・永井祐介さんが自身の活動のルーツと慕う、
写真家・三好耕三さんの写真展が催される。
永井さんと三好耕三さんの作品との出会い、そしてVACANTの展望について話を伺った。

 

──
今回の三好耕三写真展はどのような経緯で実現されたのですか。
「三好耕三さんの写真は僕が物心ついた頃から観続けてきたもので、こうしてVACANTというスペースを持つことができた今、自分が本当にやりたいことは何かを考えた時に、自分が小さい頃から観てきたものを共有したいという思いが頭に浮かびました」
──
永井さんの個人的な思い入れがとても強い展覧会なのですね。
「VACANTでの企画はスタッフ個々人が好きなものから企画をスタートしているので、それぞれに思い入れがあるのですが、今回は僕のかなり深い部分にある、あるいはルーツとも言えるものを持ち出してきたという点で、自分の中では特に大切なイベントになっています」

──
個人的な趣向からとはいえ、これまでVACANTというスペースに集まっていた人たちにとっても訴えかけるものがある、という確信はありますか。
「耕三さんの写真は強烈なインパクトを与えるというよりも、普遍的で純粋な美を表現しているものだと思います。そして、耕三さんのような作品を観た人それぞれが何を感じるか、ということに興味があります。VACANT自身の個性を出しつつも、中間的な立場を保ちたいという姿勢があるので、そのうえでお客さんがいつも作品にどのように反応してくれるのか、すごく楽しみにしています」
──
三好さんの写真を観ることになったきっかけ、またそれに惹かれた理由というのはなんでしょうか。
「写真に映っているものが何なのかさえ分からないぐらい、幼い頃から観ていたのですが、たとえそれが何か分からなくても、とにかく綺麗なものという認識がありました。耕三さんの写真はモノクロなのですが、写真でしか観ることが出来ない白黒の世界それ自体が新鮮だったことを覚えています。僕自身も写真を撮るのですが、耕三さんの影響でモノクロで撮り始め、色という情報を無くした時に、普段見ている世界がガラッと変わって見える不思議さとその魅力を追い求めていたように思います」

 

──
VACANTはポップカルチャーのサイドからアートを捉えていますよね。そういったVACANTならではの文脈の中で三好耕三さんの写真展を行うということを、どのような位置づけで考えていらっしゃいますか。
「僕が耕三さんの写真展をやりたいと考えていた時が、ちょうどMatch and companyさんから耕三さんの写真集を作るというお話があり、タイミングがバッチリ合ったということがあります。それで、さらに耕三さんが20年以上作品を展示されている芝浦のギャラリーP.G.Iさんと、VACANTで同時開催をするということになりました。耕三さんは常に新しいものを作り続けている方で、古い作品を見せるということはしていなかったのですが、今回の展示ではあえて80年代の古い作品を展示していただいています。若い人が集まる原宿という場所で、自分より上の世代の方々の話を聞きたいと常々思っているのですが、それは時の流れと共にいつか聞けなくなってしまうものです。それと同様にこの展示会も今しか観ることができないものをこのタイミングで観せるという部分に重要性を感じています。耕三さんはGelatin Silver Sessionという銀塩プリントを守る活動にも参加されていて、デジタル化が進む中で廃れていってしまいつつある銀塩写真の美しさを表現し続けています。そのように、昔からの創作の在り方や手法を見せておくことで、新しい世代が生まれるための基礎になると思っています。もしそれが忘れ去られた状態で新しいものを作ったとしても、そこから良質なものは生まれないのではないでしょうか。今は受け継がれてきたものをしっかり見る、ということが大切な時期なのではないかと感じています。日本のアートビジネスがまだまだ成熟していないというのは、見る人の目の問題でもあると思うので、その目を肥やすという意味でも意義のあることだと思います」
──
今回の写真展の後も様々な企画があると思うのですが、それらも今おっしゃられたことと同じスタンスで行われていくのでしょうか。
「年内はTalking HeadsのDavid Byrneのアート展が予定されています。David Byrneはミュージシャンとしてはもちろん有名ですが、長い間精力的にアート活動をしているので、このタイミングで過去の作品を振り返って、David Byrneという人間の面白さを再発見してもらえればと思っています。そして、年明けにも大きな展示が控えていますが、どれも自分自身がいま見たい、共有したいものというのが一番重要なポイントです」