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THINK PIECE

Small Wonder World

小さなリアル
模型に見るワンダーウォールのデザインプロセス

10 12/17 UP

photo:Shoichi Kajino text:Kohei Onuki

片山正通率いるインテリアデザイン事務所、ワンダーウォール。
同事務所が、これまでに手がけた中の10プロジェクトの模型を展示する模型展覧会をスタートした。
普段目にすることの出来ない「小さなリアル」である模型。
その模型に見るワンダーウォールのデザインプロセス。

 

──
東京、福岡、名古屋を巡回する模型展覧会がスタートしました。片山さんのデザインプロセスにおいて、模型から得られるものとはどのようなものですか。
「僕が独立する前に勤めていたいくつかのデザイン事務所では、手描きのスケッチやCGパースも使っていましたが、一番模型を重要視していたんです。模型を作ると、デザインの良い部分、悪い部分が如実に現れるんです。そこで、修正を加えながら、イメージと現実の間のギャップを少しずつ埋めていくという点で、よりリアリティーのある提案が可能になります」
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デザイナーの中には、模型を重視する方、CGパースを重視する方、それぞれいるのでしょうか。
「それはデザイナーにより異なりますね。僕の場合、模型を作らないと完成形がイメージ出来ないんです。頭の中でイメージしているものとほぼ同じ形に至るまで、フォルムを変えたり、素材を変えたり、何度も作り直しますね。そうしながら、デザインの精度を上げていき、イメージと違う時はその都度調整を加えてきます」

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ディティールもかなり精緻に再現されていますね。
「普通はここまでやらないのかもしれませんね(笑)。けれど、インテリアデザインは直感的に理解されないといけないんです。なので、素材の組み合わせや色、あらゆる角度からの見え方、そして空気感を伝える為にも模型は出来る限りリアルな方がいいんですよ。また、そのお店でクライアントが10のしたいことがあったとしても、スペースの関係上物理的に無理な事や、出来るけどしない方が良いということがあるんです。曖昧な状態でプレゼンテーションをすると、『もっと色々出来るんじゃない』と想像の余地が出来てしまいますから。その時に大切なのが、プロジェクトに最適な密度を『これしかない』というレベルまで突き詰めていく作業で、そういう検証も模型で同時に行います。限られた空間ですべてを行うのは無理なので、良い意味での割り切りというか、何にプライオリティーを置くかということを精査するのにも役立ちます」
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プレゼンテーション前、模型への人形配置もご自身で行われるとお聞きしました。
「出来る限り自分でやるようにしていますね。『ここの部分はこういう風に使って欲しいな』とイメージや物語を頭に浮かべながら、人形を配置します。インテリアデザインは、そこに集まる人がいてはじめて成立するものなので、人形配置も大事なプロセスです。人が集まった時、色々な物が置かれている時に違和感のある空間では駄目。人の血が通ってはじめて空間が成立するんです」
──
片山さんのある種「ストイック」なプロセスを経て完成する物件。その物件を見たクライアントの反応はどのようなものですか。
「物件が完成した時、『模型通りですね』と話してくれる人が多くて、そういう言葉を頂いた時は、すごく嬉しいですね。デザインの過程で完成形がほぼ見えていたことを立証してくれる言葉なので」

 

──
展覧会では、ワンダーウォールが手がけた10プロジェクトの模型が展示されています。いくつかの模型を前に、デザインのポイントを教えて下さい。例えばUNIQLO Soho New Yorkはどのような部分が見所ですか。
「ユニクロは商品量、色数、そしてバリエーションが豊富なので、『服で空間を作ろう』と考えました。その発想から生まれたものが“Tシャツ・ウォール” のように一つの商品で壁を埋めるというデザインです。また、『ニューヨークのソーホーらしさ』を感じてもらうために、既存の建物の古いレンガの壁をカウンター奥のガラス越しにあえて残しています。A.P.C. DAIKANYAMA HOMMEも、建物を簡単に壊してしまうのではなく、既存のガレージなどを活かし、これまでの記憶をパッケージングするという方法でデザインした物件です。会場に展示してある本のレイアウトの中に、以前のお店の写真が掲載されているので比べてみると面白いかもしれません。次に、ユニクロの横に展示してある丸の内のPASS THE BATON。新しいリサイクルをテーマに、アンティーク品や出品された洋服などを取り扱うお店です。商品は年代や国籍が様々なので、同じコンセプトで家具を集めて壁にコラージュしています。僕は、通常デザインをまとめようとしてしまうのですが、ここではあえて統一感を図らないようにしました。通常こういったリサイクルやアンティークを扱うお店は、ムードがあるお店が多いのですが、壁にコラージュされた棚の随所に照明を施して、『アイテムをコンテンポラリーに見せる』にこだわりました」
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近年では、パリのコレットのデザインも手掛けていましたね。
「コレットは僕自身の憧れのショップだったので、これまでの雰囲気を壊してしまわないよう、客観的にデザインしました。コレットというと、デザイン的にはミニマム、シンプルなイメージがありますが、実際に扱うアイテムはとても多いんです。そこで、スニーカーのディスプレーウォールのように縦軸も使いながら、商品量を確保しつつニュートラルな印象にしています。コレットは毎週日曜日が定休日なのですが、その時にスタッフがディスプレイの入れ替えをして、店内の情報が大きく変わるんです。そんなコレットに『お店はソフトをパッケージするためのインフラなんだ』というショップの原点を再認識させられました。特にコレットはセレクトショップで、取り扱う商品が変わって行くのが当然です。その場合は、お店の雰囲気がでしゃばり過ぎたものだと、ソフトがスムースに流れなくなるということなんですよね」