honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

THINK PIECE

salyu×salyu - s(o)un(d)beams

新プロジェクトから垣間見る、ヴォーカリストSalyuの原点

11 4/11 UP

photo:Kentaro Matsumoto text:honeyee.com

これまでに多くのプロジェクト、コラボレーションを経て、
様々な楽曲でその類い稀なる歌声を披露してきた天性のヴォーカリスト・Salyu。
新プロジェクトsalyu×salyuではクロッシング・ハーモニーと呼ばれる理論を大々的にフィーチャー。
Cornelius (小山田圭吾)をプロデューサーに迎えたアルバム「s(o)un(d)beams」で追求された
Salyuの音楽的原点、"声"の可能性とは。

 

──
まず、salyu×salyuというプロジェクトについて教えてください。
「このプロジェクトは、今回のアルバムのプロデュースを手がけてくださった小山田圭吾さんに、直談判に行くところから始まります。かなり以前から小山田さんと一緒に制作をさせていただきたいとは思っていたのですが、ヴォーカリストとしてプロデューサーにお願いをするにあたって、しっかりとしたテーマやコンセプトを持って会いに行きたいという気持ちがあったんです。そして、3〜4年前にクロッシング・ハーモニーという概念に出会ったことをきっかけに、実際に小山田さんにお話させて頂きました」
──
そのクロッシング・ハーモニーとはどういったものなのでしょうか。
「簡単に言うと、隣り合っている音同士のハーモニーという意味です。ピアノで考えると分かりやすいと思うのですが、鍵盤の8鍵全てを押さえるとそこに不協和音と感じられる音が現れます。それが鍵盤ではなく人間の声になった時に、楽器では表すことができない見事なハーモニーに変わるという理論がクロッシング・ハーモニーです。それを知ってから、実際に自分の声でドレミファソラシドというスケール全てを録音して合わせてみたのですが、そのサウンドが想像以上に衝撃的で、ヴォーカリストとしての「声」という楽器の特性や素晴らしさ、そこから発展して人間という生き物の面白さを伝えることができるものだと感じました。そして、この新しい試みをどうポップとして落とし込むかを考えた時に、必然的に小山田さんが浮かんで、直談判させていただきました」
──
小山田さんとの制作はどのような手順で進んでいったのですか。
「実際に制作を始めてから完成までに2年間かかっているのですが、その間に私も小山田さんも別の活動があったので、時間にゆとりがある時に焦らずリラックスして取り組んで来た形です。初めてお話しに行った時に、小山田さんもクロッシング・ハーモニーに興味を持ってくださって、一曲作ってみようという所までいったんです。その時に作っていただいたデモから得た印象や必要なエモーションを、歌詞のついていないスキャットの様なもので込めていく、というように進めていきました。そこで完成したのが「奴隷」という曲なのですが、他の曲に関しても同様のことを繰り返して作り上げていきました。初めての共同制作ということもあって、小山田さんの私への印象がそのまま音に現れてきたので、それが楽しみでしたね。小山田さんには絶大な信頼を寄せていたので、音楽の構築は小山田さんにお任せした上で、私はパフォーマーとしてどれだけ機能できるかという姿勢で取り組みました」

 

──
一曲目の「ただのともだち」は、声を楽器として捉えるという概念が特に全面に押し出された曲だと感じたのですが、これを一曲目にしたことに何か理由はありますか。
「salyu×salyuの自己紹介として、これを一曲目にしたのはすごく良かったと思います。作詞をしてくれた坂本さん(ex.ゆらゆら帝国)に、「一曲目にふさわしい曲を」とお願いした訳ではないのですが、それにふさわしい曲になりましたね。最終曲「続きを」に関しても同様なのですが、時々起こるクリエイションにおける奇跡ですね」

──
Salyu名義で発表してきた楽曲とはまるで異なるものに仕上がっていますが、これまでのファンの方々にはどう受け取られるでしょうか。
「Salyuでは自分がシンボライズされた存在として、楽曲や時代の空気感に対してどのような振る舞いができるかに集中しているのですが、salyu×salyuでは私の音楽的原点にフィーチャーしています。私は小さい頃から合唱団に所属して音楽を学んできて、人間の声が生み出すハーモニーの美しさこそが音楽だと考えてきました。そういった私のバックグラウンドを聴く方には知ってほしいですし、人の声というものの美しさ、面白さを改めて感じてもらえたらと思います」
──
作詞でいとうせいこうさんや坂本慎太郎さん、七尾旅人さんらが参加されていますが、ここにはどういった経緯があったのでしょうか。
「Salyu名義では作詞も行ってきたので、私が歌詞を書くという選択肢もあったのですが、今回に関してそれは出来るだけ避けました。先程もお話した通り、小さい頃に合唱団に入っていたりピアノを習っていたりと、既にあるものをいかに表現するかという姿勢が音楽だと思って育ってきたので、salyu×salyuでは原点回帰として、自分に一番合った方法で制作したかったんです。そこで信頼できる作詞家として私から坂本さんと旅人くんを挙げさせていただいて、小山田さんの方からいとうせいこうさんを挙げていただきました。どなたとも昔から交流があるのですが、私にとって理想の歌詞を書かれる方々なんです。それは活字だけでは理解することができない歌詞。読んだだけでは分からないけれど、音と合わさった時に意味を放ち出すというものなんです。そういう意味で、どなたも言葉の提示の天才だと信頼していたので、今回参加のオファーをさせていただきました。楽曲、歌詞に関してはそれぞれの天才にお任せしたことで、私はパフォーマーとしていかにそれを表現するかに集中することができました」