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THINK PIECE

P.M.Ken 写真集「crosspoint」

シティスケープの合成が話題の「crosspoint」シリーズ、初の写真集

12 2/7 UP

text: Akihiro Hayashi

海外の街と東京の街、異なる2つの街の写真を合成した独自のスタイルが話題を呼ぶ「crosspoint」シリーズ。
代官山で開催された初の写真展で発表された作品に九州・京都といった新たな街での新作も加え、
P.M.Ken自身初となる写真集の出版、そして出版記念写真展の開催が決定した。
自ら編み出したスタイルで撮り続け、もはやライフワークとなりつつあると語る同シリーズ。
そのクリエイティビティの源泉を探る。

 

P.M.Ken (ヒーエムケン)

1990年東京造形大学卒。同年フリーのフォトグラファーとして独立。 90年代、テシタルフォトの聡明期よりPhotoshopによる合成写真に取り組み、独自のスタイルを構築。以来、東京のストリートカルチャーを代表するフォトクラファーの一人として、音楽やファッションなどのクリエイティブに数多く携わる。
http://www.pmken.com/

 

──
crosspointについては、2年前の写真展の際にもハニカムでインタビューさせて頂きました。その後も新作を撮り続け、今回は写真集の出版となった訳ですが、写真集というかたちで作品をまとめるという発想はいつからあったのでしょうか?
「作品を作っているときに、写真集を目的にはしていなかったですね。あくまでも1点づつ完結する作品があって、その作品群というように考えています。それともう一つは、やはりオリジナルプリントをまずは鑑賞して欲しいので今回も展覧会をやります。もちろん展覧会の会場まで来られない方や海外の方などよりいろんな人に知って欲しいという気持ちはあるので、そういう手段の一つとして写真集も作りました。だから写真集になったからこれで終わりって事ではなく、これは全く尽きないんです(笑)。たぶんライフワーク的にやっていける事なので、この写真集は敢えていうとcrosspoint vol.1ですね、まだまだ増えていきますよ」

──
撮りたまった作品の数々をご自身で俯瞰で並べて、改めで気づく事などはありましたか?
「一つは街を客観視する行為での再発見があるんですけど、もう一つはその逆で、自分がどう眺めているか?なんです。自分が得意な構図とかアングルが固まってきたりすると、もう少し違うやり方があるんじゃないか?とか、そのあたりを考えたりはしましたね。前回のインタビューでもお話しましたが、二つの街の写真を合成するニコイチという手法には最低限のルールがあって、基本的には一つの境界線でつなぐという加工以外はしていないんです。だから、シンメトリー以外の構図とか、そういうところで新作ではいろいろなものを出しています」
──
作品は基本的に海外の街と日本の街の写真の合成ですが、海外の人から見る視点は日本人が見る視点とは違うのでしょうか?
「何名かに聞いた感想だと基本的な印象は同じですね。面白かったのは、この街は青山でいくとここかな、とか、かなり具体的な話が出て来ます(笑)。それで、意外と皆同じ感覚を持っていて街の表情や空気を感じる感覚はあってるんですね。ムーランルージュと歌舞伎町とか。都会が形成される時のそれぞれの街の役割や文脈みたいなものによって自然と似てくるんでしょうね。そこの答え合わせするような感覚も面白いと思います」

 

──
例えば横尾忠則さんのY字路シリーズにも通じるような、リアルとリアルでないもの、日常と非日常の間にある異次元のような感覚は作品を作る時にどのように意識されているのでしょうか?
「二つの街をニコイチで繋げる事自体は、もちろん表層的な手法に過ぎないんです。横尾さんの事は展覧会でもよく言われますし、僕自身も意識する点はもちろんありますよ。夢に出てくる世界や何かの強迫観念のようなものですね。例えば右と左をどうしてもくっつけたくなるのは自分のグラフィカルな癖という事でもあるのですが、それは潜在的な強迫観念かもしれないですから。そういったリアリティの違和感は写真ではより強くでるのかもしれませんが、このシリーズに限らず僕がやっている合成写真というのはまずそれが醍醐味なので、普段から常にやっている事でもある訳です。また一方で、僕が作品を作っているときの衝動はむしろ表層なんです。例えば人間を人形にしたいというのがまずあって、人間を人形にしたときに醸し出す何かを狙ってという感じでは無いんです。人間が人形になるサブライズ、それ自体がまず僕の中でのファンタジーとしてあって、それを実現するスキルを見つけて習得したという事なんです。結果できたものを自分でまた見て、できるじゃんと思ったり、どうでもいいところをすごく拘ってるなとか、なんで全部シンメトリーなんだろうとか(笑)、そういうものは全部あとからなんですよね。やはり仕事量としてはアイデアより手作業のスキルがすごく大変な訳です。その時は本当に職人になっていて、できあがった時にはじめて鏡に写った自分を見るという感覚です」
──
コマーシャルフォトと今回の作品では、モノ作りにおける違いはありますか?
「たぶん客観的なテンションはあまり違って見えないと思うんです。このcrosspointというシリーズもきっかけはTシャツのグラフィックを作るところから始まったものですし。ただ、広告や雑誌のクリエイティブはより社会性のあるテーマになってくるのに対して、作品を作るという事になると、よりプライベートな感覚が出てきますね。どちらにも一定の作家性というのは入り込みますが、何か秘めたものやタブーのようなものはオブラートに隠されていて、そのオブラート自体が作品の個性として成立しているようなもの、そういうのが僕の理想なんです」