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THINK PIECE

DIMITRI FROM PARIS

ディミトリ・フロム・パリスの本音。

12 7/11 UP

photo: Gaku Maeda text: yk special thanks: AIR/WONDER & CLOCKS co.,ltd./B,B,Q Co.,Ltd.

パリのクラブシーンを聡明期から築き上げてきた、
フランスを代表するDJ/プロデューサーの一人、DIMITRI FROM PARIS。
洗練されたビジュアルで奏でるオーガニックで心地良いサウンドは世界中に熱狂的なファンを持ち、
とりわけ日本では過去20年以上に渡って毎年来日公演を行うほどに人気を博している。
そして今年も日本にやってきた彼に、現在の活動状況、
世界中をツアーしながら感じた、 音楽をとりまくシーンの変化について伺った。

 

──
最近の活動状況はいかがですか?
「ここ7〜8年はあまり制作活動をしていなかったんだけど、最近はDJ ROCCAというイタリアのDJとのユニット"ERODISCOTIQUE"をスタートさせて、ドイツのGOMMAレーベルから3枚のレコードをリリースしたんだ。個人でもCHICやJACKSON 5、NILE RODGERS、SEBASTIEN TELLIERといったアーティストのリミックスも手がけたよ」
──
プロダクションを休止していたのには何か理由があるのですか?
「その間はDJをたくさんやっていたからね。ただシーンがどんどん変わって、リリースされる新譜も僕にとってエキサイティングだと思えるものが少なくなってしまったんだ。だから自分のためにリエディットをたくさん作るようになって、その頃にDJ ROCCAとも出会ったというわけ。それがここ1〜2年の話だね。これまで他人とコラボレーションしたことは無かったんだけど、彼とはセンスもマインドも共通するものを持っているから、すごくうまくいっているよ」
──
今はDJとプロダクションを両立させているわけですね。
「そうだね。でも自分の音楽をきちんと理解してもらえる場所でしかプレイしないことにしたから、ギグの数はこれまでよりも減らしたんだ。ここ数年でダンスミュージック・シーンはとてもコマーシャルなものになってしまって、僕がそういう場所でプレイするのはナンセンスだと思ってね」
──
コマーシャル化したクラブシーンの裏ではアンダーグラウンドなシーンも確実に存在していて、そこでは最近ディスコ・リバイバルとしてDIMITRIさんがこれまで長きに渡って続けてきた音楽が改めて再評価されているのですが、ご自身でその実感はありますか?
「それって、本当に限られたごく少数の人たちの話なんじゃないかな(笑)。でも日本に関して言うなら、僕がここ20年間毎年来日していて感じるのは、日本には音楽に対して熱心な若い人が常に一定数いるということだね。世界的に見ると最早ダンスミュージック・シーンはセレブのためのものになりつつあるけど、日本とイギリスだけは違う。だから音楽不況の影響は受けつつも、きちんとしたシーンが存在しているんじゃないかな。僕が日本でプレイし続けているのは、日本のオーディエンスが僕の音楽を理解してくれているという実感があるからなんだ」

 

──
日本のクラブシーンと他の国のそれとは、具体的に何が異なるのでしょうか?
「アメリカやヨーロッパでは皆、お酒とパーティーを目的にクラブに来るんだ。音楽なんて二の次で、夜中に酔っぱらって騒げる場所が他に無いからクラブに来る。日本から見て、ヨーロッパのシーンが盛り上がっているように見えるのは、ただ酔っぱらいが騒いでいるだけのことが多いよ。でも日本は、お酒が飲みたければ深夜もやっているバーや居酒屋がいくらでもあるし、騒ぎたければカラオケだってある。それでもクラブに来る人達というのは、純粋に音楽を求めているんだよね。海外のアーティストが一番好きな場所を聞かれて日本と答えるのは、お世辞でもなんでもなくて、きちんと自分の音楽に向き合ってくれるからなんだ。しっかりと聴いてくれた上で好きじゃないと言われたとしても、聴いてもいないのに最高だったと言われるよりずっといいよね」

──
音楽不況や政府によるクラブシーンの規制など、厳しい状況が続く音楽シーンですが、この窮地を脱する術はあるのでしょうか?
「音楽産業に関しては、はっきり言ってもう術はないよ。今のメジャーレーベルはある程度売れることが約束された、ごく限られた数のアーティストを売り出すためだけに予算を使ってしまって、それ以外のアーティストにはチャンスも回ってこないのが現状だからね。クラブシーンに関しては常にそういった規制と隣り合わせにいるけど、僕はそのことにそれほど悲観的ではないんだ。政府が音楽を理解しているわけはないから、彼らにも分かるようにダンスミュージックファン、クラブ関係者が一丸となってアピールすることで状況は変えることができると信じているよ」
──
音楽を売るというビジネスモデルが破綻した音楽業界の中で、長年このシーンで活動してきたDIMITRIさんは今後どのようにサバイヴしていくのでしょうか?
「今の時代、ミュージシャンにとってレーベルという存在自体が必要なくなっているんだ。インターネットを使えば誰でも自分の音楽を世界中の人に聴いてもらえるし、プロモーションだってできる。僕自身、作った音楽は無料で公開しているし、楽曲を売って利益を出すことはほとんどなくなったよ。それでも今なお僕が音楽で生活できているのは、僕の音楽を聴いて、DJを聴きたいと思ってくれる人がいるからなんだ」