honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

THINK PIECE

MASARU TATSUKI

木村伊兵衛賞受賞後初の個展「その血はまだ赤いのか」

12 3/2 UP

photo: Masaru Tatsuki text: Tetsuya Suzuki

昨年、発表された写真集『東北』で、第37回木村伊兵衛写真賞を受賞した写真家・田附勝。東日本大震災により、はからずしも注目を浴びることになったこの写真集『東北』について、そして、震災を経て今回開催される展覧会『その血はまだ赤いのか』について。異能の写真家、今、田附は何を思う。

田附勝 / MASARU TATSUKI

1974年、富山県生まれ。1998年、フリーランスとして活動開始。同年、アート・トラックに出会い、9年間に渡り全国でアート・トラックおよびドライバーの撮影を続け、2007 年に写真集『DECOTORA』(リトルモア)を刊行。翌年には、日本「リトルモア地下」、米国「TAIGallery」にて同タイトルの個展を開催し た。2011年に刊行し、2012年、第37回(2011年度) 木村伊兵衛写真賞を受賞した写真集『東北』(リトルモア)は、2006年から東北地方に通い、撮り続けた。
http://tatsukimasaru.com/


 

写真集『東北』より
 

──
田附さんは、昨年7月に発表された写真集『東北』(リトルモア)で今年、木村伊兵衛写真賞を受賞しました。そして、この写真展『その血はまだ赤いのか』は、受賞後初の展覧会となります。そのことを、ご自身ではどのように捉えていますか。
「この『その血はまだ赤いのか』展は、結果的に受賞後の第一弾になる展覧会になったわけだけれど、展覧会の内容自体は受賞以前から決まっていました。実は最初、『東北』を展示して欲しいという話だったのだけれど、会場のスペースの関係で『東北』をしっかり見せるのは難しいだろうと。それが去年の9月の時点の話だったんですが、『どのみち、これから鹿猟のドキュメントを撮りに行くから、その写真を展示するのはどうですか』と、僕の方からギャラリーであるSLANTに提案しました」

写真展『その血はまだ赤いのか』より
 

──
ということは、この展覧会も、やはり写真集『東北』のインパクトがきっかけではあったんですね。
「その意味では、そうです。やはり『東北』は、受賞も含めて自分の環境を変えました。ただ、その前の写真集『DECOTRA』(独特な華美な装飾を施したトラック=デコトラを、そのオーナードライバーとともに捉えた写真作品集)も、そのトラックとオーナーたちを撮ることで、言ってみれば、彼らの誇りのようなものを撮ろうと思った。そして、そのことが、彼らを通して『日本』を撮ることになるだろうと考えたわけです。それは、『東北』にも通じています。写真家として自分が一番興味を持っているものは『日本』だから。『DECOTRA』を終えて、さらに日本のコアに迫る何かが、東北地方にはあるんじゃないかという閃きが『東北』の原点です」

 

──
日本の「何」が、東北にはあると思ったんですか。
「それが、『日本論』みたいなものになると、とても難しいし複雑なものになるんだろうけれど、あえて言えば、日本の太古の姿みたいなものが、21世紀の現在でも残っている場所があるとしたら、それは東北地方なのではないかと直感して。ただ、70〜80年代にも東北をテーマにした写真作品は、たくさんあって、当然それとは違うというか、現在に至り、さらに変化した形で残っているものがあるだろうと。あるいは、ないかもしれないけれど、どちらにせよ、それを自分の目で見て確かめたいということが発端です。そして、その日本の太古の姿があったとして、21世紀の我々にはどう映るのか、を知りたいという欲求です。それは、『東北』から、今回の展覧会『その血はまだ赤いのか』にも一貫している。この展覧会で展示されている写真では、岩手県の鹿猟の猟師の方を追っているのですが、それこそ、鹿猟というのは、やり方は変化しているだろうけれど、人が鹿を捉えて、殺めて食す、ということでは永遠と続いてきたことでしょう。それは今の我々にどのように見えるのか。その見えるものも、人から見るのか、鹿から見るのかで、また違ってくるだろうし」

写真展『その血はまだ赤いのか』より