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THINK PIECE

Yoshiyuki Okuyama × Akashi Oda

「相思相愛の関係を作る」

12 12/6 UP

interview: Akashi Oda

人のあやふやで儚い記憶のイメージと感情を瑞々しい感性で、表現した写真集「Girl」を出版した奥山由之。
現役の大学生でありながら、ファッションや広告などの様々なフィールドで写真家として活躍する彼にとって
「Girl」の出版はどのような意味を持ち、これから何を目指すのか。
同じく91年生まれで、アートマガジン「LIKTEN」の小田明志が奥山由之の今に迫った。

 

写真集「Girl」より
 

──
「Girl」の出版おめでとうございます。本格的な写真集の出版は初めてということですが、手応えはいかがですか?
「ありがとうございます。テーマである夢の記憶、夢なのか現実なのか区別がつかない、あやふやなイメージを展示とは違った形で体験が出来る本に仕上がりました。自分でも納得のいく、かっこいいものをつくれたと思っています」
──
この写真集は、「写真新世紀」で優秀賞を受賞した作品を収録していると聞きました。
「はい。ただ、コンテストと写真集では観る人の層も環境も違うので、本に収録したのは、写真集向けに再構成したものです。同じ構図の写真がループしたりしていり、本にしか出来ない表現にもこだわっています。ちなみに、ループしている箇所の写真は、人によって全く同じ写真に見えたり、微妙に違う写真に見えたりするみたいです。夢の記憶も同じで、一度見たはずのものが同じ形で現れるとは限らない。そういう意味では、読者のこの反応は狙い通り。もちろん僕は全く同じ写真を使っているのか、そうでないのか解っているのですが、ここで答えは言いません。是非『girl』を手にとって確かめてみてもらいたいと思います(笑)」

写真集「Girl」より
 

──
コンテスト入賞以降も、New Balanceの広告やくるりのアルバムジャケット撮影をはじめとした仕事で写真家としての評価も上がっていますね。気鋭の写真家と評されることに関してどう感じていますか?
「自分の作品には自信を持っているので、特に戸惑ったりすることはないですが、そういう形容詞を使う人の中には、実際に僕の作品を観ていないことが多いと感じます。若い学生だから面白がっているだけで、作品自体を評価して認めてくれる人はまだまだ少ない。ただ、若い学生だから出来ている仕事というのが多いことは事実です。くるりとアンリアレイジ、いずれも撮影期間が長かったので、学生という立場でなかったら難しかったかもしれません」
──
若さだけを武器にできていたら、さらに多くの若い写真家が活躍できていてもおかしくないと思うのですが、同世代の写真家との違いを感じることはありますか?
「たしかに、同世代の写真家に比べたら大きな仕事をしているから、なんでそんな仕事ができるの? と聞かれることも多いです。その度に適切な答えを考えるけど、売り込んだからとしか答えようがない。ただ、売り込んだからと言って仕事ができるわけではないから、もしかしたら違いはそこにあるのかもしれないですね」

 

作品集「A REAL UN REAL AGE」より
 

──
売り込みの方法に違いがあるということですか?
「僕が一緒に仕事させてもらっているのは、僕自身がどうしようもなく好きで尊敬している人たち。だけど、それだけでは一緒に仕事をする理由にはなり得ません。必要なのは、僕が関わることで彼らがさらに格好良くみえるという大前提で、一方的な好意を持って『やらせて頂く』というより、『一緒につくる』相思相愛の関係を作ることがなによりも大事。それに、双方の利益がマッチした状態で作品が世に出て行くことの方が効率的だし、自然ですよね」
──
なるほど。では逆に、上の世代の写真家との違いを感じることはありますか?
「技術的な違いを感じたことはありませんが、写真という表現方法のとらえ方については違うところがあるのかもしれません。僕たちの世代にとって写真は、モニターで見る機会の方が多いだけではなくて、プリクラでシールになり、iPadで直感的に扱えるものにもなる。今回の写真集にはデジタルカメラで撮影した作品は収録していませんが、主に写真を実体のないデータとして扱いながら生活してきた経験は、確実に作品の中に生きていると思っています」

作品集「A REAL UN REAL AGE」より
 

──
デジタルカメラを使わず、フィルムカメラにこだわるのには理由があるのでしょうか?
「はい。より直接的な表現に挑戦している今は、フィルムカメラの方が自分に向いている気がします。フィルムだと撮影によりお金がかかるし、現場で確認することもできない。使う側にしてみれば、すごく面倒だと思うけど、逆にそのことが自分に向かない仕事をフィルタリングしてくれているのかなとも思う」
──
作品作りをしていく中で、写真家として活動する以前の、映画監督としてのキャリアが生かされていることを感じることはありますか?
「それはありますね。映画はまずは企画ありき。作品にとって、自分がどういう働きをすればベストなのかを、スタッフひとりひとりに考えてもらわなければならない。そのためにはその企画が持つ意図、最終的な目的を明確に定めて、みんなに伝えることが不可欠です。実は写真も同じで、目的を定めないまま進めてしまうと、混乱を生むことになる。スタッフは僕ひとりなんだけど(笑)」