honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

THINK PIECE

WOMB ADVENTURE’12

大沢伸一が読み解く、2010年代のダンスミュージック・シーン。

12 12/5 UP

photo: Hideyuki Uchino text: Tetsuya Suzuki

2008年より毎年開催され、今やダンスミュージックの祭典とも評される
大型ダンスミュージック・イベント"WOMB ADVENTURE"が今年も開催。
2010年以降、大きく変動した国内クラブシーンを、常にその最前線で活動する大沢伸一が読み解き、
WOMBという場所、そしてWOMB ADVENTUREを語る。

 

──
2012年を振り返って、シーンに対してどのような印象がありますか?
「大型のフェスティバルが多く開催されて、どれも盛り上がっていましたよね。ただダンスミュージックが完成化するとともに、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの棲み分けが曖昧になった年でもあると思います。昔からダンスミュージックが大好きで、フロアで夜通し踊っていたような人達の熱は若干醒めたような気がするんです。それは今年だけの話ではなくて、3.11以降、それに付随する様々な問題がそうさせているのだと思いますが、夜にクールな遊び方をしていた人達が別のところに行くようになったという印象です。そしてその穴を埋めるかのように、アメリカ発のEDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)の大きな波が日本にも流れ込んで、新たにポップな客層を生んだのではないでしょうか。その中で僕個人としてはEDMとは別のところに自分のスタイルを置いているので、そこの整合性をつけるのに苦労した一年でした。そこで言うとWOMB ADVENTUREはアンダーグラウンドシーンの最高峰ともいえるイベントですから、僕の中では何の抵抗もなく全力でやれる場所ですね」

──
ここで言うアンダーグラウンドやオーバーグラウンドというのはお客さんの数ではなく性質の問題で、そこがはっきりしたということですよね。その中でも、大沢さんはアンダーグラウンドなクオリティーを持ちながら、オーバーグラウンドにも届く絶対の安心感があると思うんです。
「そう思っていただけると嬉しいですけどね。僕がプレイするエレクトロを通過したテクノというのは、不特定多数の人々を盛り上げるにはスペック的に限界があるんです。それに反してEDMはロックやポップスの高揚感を持っているので、勝負にならないというか、質そのものが違うんですよ。だからそれを同居させるのではなくて、棲み分けをするしかないんです。僕自身、EDMは大嫌いであり、大好きなんですよ。だからさっき言った別名義で、僕なりのEDMをやってみたいとも思っています。日本はアメリカ追従形だから、ヨーロッパのクラブの文化が浸透するのにものすごく時間がかかりましたよね。でもEDMのようにビルボードのチャートに乗るような曲があったり、AfrojackがParis Hiltonと付き合ったりみたいなゴシップがあったりすると、日本人はイチコロなんですよ。ダンスミュージックという大きなくくりで言えば文化的に大きくなるのは大歓迎なのですが、それは入り口にして、もっと面白い音楽を探求していってほしいと思っています。皆で手を挙げて合唱するだけでなく、WOMBのように真っ暗な空間の中で踊ることの楽しみも知ってもらいたいですから」

 

──
アンダーグラウンドという言い方をしていても、閉鎖的なものでは決してないんですよね。普遍的かつフィジカルなものだから、誰が入っても楽しめると思うんです。
「その通りですね。なので、EDMから入ってくる人達には偏見なく、まずは体感してみてほしいんです。クラブシーンだけに言えることではないのですが、僕が一番危惧している日本人の傾向は、一つのトレンドが生まれるとそこだけに固執してしまうところなんです。出来上がったフォーマットやトレンドに乗ったり、その模倣をするということは、新しい物を創ってシーンを広げようとする時にものすごくマイナスな効果をもたらしてしまいます。海外だとメインストリームに対するアンチ、オルタナティブが常に無数に存在するし、そこから新しいものが生まれていますよね。日本もそうやって多様化するべきなんじゃないでしょうか」