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THINK PIECE

LATE NIGHT BLUES

音楽プロデューサー・井出靖、14年ぶりのソロアルバムリリース!

12 7/9 UP

photo: Kentaro Matsumoto text: Tetsuya Suzuki

Grand Gallery主宰者であり、DJ/プロデューサーとして国内外でその作品が評価される井出靖。
その彼が実に14年振りとなるソロ・アルバム「LATE NIGHT BLUES」をリリース。
ジェームス・チャンス、トム・ヴァーラインといった文字通りの「レジェンド」たちから、DJ Krush、高木完、堀江博久、
中島ノブユキ、Kenji Jammer、屋敷豪太、石井マサユキといった国内屈指のミアーティストが参加するこのアルバムでは、
井出らしいロマンチシズムがスマートにアップデートされている。

 

──
14年ぶりとなるソロアルバム。ソロアルバムを出したいという気持ちはこの14年間ずっとあったのですか?
「実はあまりありませんでした。特に自分でレーベル(グランドギャラリー)を始めてからは、プロデュースやA&Rとしての仕事に集中していたので、自分の作品を作るということに意識がいきませんでした。逆に言えばプロデューサーとして自社の作品を頻繁にリリースすることで満足していたのだと思います」
──
では、なぜ、ご自身名義のソロアルバムを?
「やっぱり、年齢的なものというか、僕は今年52歳になったのですが、自分が50代の道を歩み始めていることを実感しだしたことと、やっぱり3.11があって、自分が“残せるもの”は何かと考えたら、もう一枚くらい、ここで作品を出したいな、という気持ちになって。それが去年の秋くらいです」

──
秋にアルバムの着想があったとして、楽曲の制作や参加ミュージシャンへのオファーなどを考えると、決してスケールの小さな作品ではないと思いますが、かなり短い時間で完成まで漕ぎ着けたわけですか?
「海外のミュージシャンとのセッションは、98年にリリースした『PURPLE NOON』というアルバムの製作時のものなんですよ。その頃はヤル気があったから(笑)、旅をしながら出会ったミュージシャンに次作の分まで録音させてもらっていて。実は今回使っていないストックもまだあるのですが(笑)。国内のミュージシャンによるものは、すべて、今回のための新録です」
──
では、古い素材と今の音源が混ざっているわけですね。制作はどのような順序で進めたのですか?
「今作にとりかかる時、まずそうした過去に録音した素材を全部聴き直したんですね。当時ですからDATとかA-DATと呼ばれていたテープに残していたわけですが、そのなかから今使っても大丈夫なもの、古く感じないものをピックアップすることから始めたんです。僕の場合、プロデューサーとして音楽を作り続けているから、だいたいどんな感じで楽曲ができてくるか、十分わかっているわけですが、とはいえ、いざ自分自身の作品となると、ダンスビートをメインにしたものにするべきか、それともダウンテンポのダビーなものにするべきかとか、なんでも作れる分、どういう音楽を目指せばいいのかが、なかなか決まらなくて、そこに向きあうのが大変といえば大変でしたね」

 

──
結果、完成されたアルバムは、全体を通して情景が脳裏に浮かぶ、いわばサウンドトラックのような雰囲気に仕上がっています。
「だんだん素材がまとまって来るなかで、最終的な楽曲のスタイルをイメージすると『メロディアスなものではないな』と思うようになって。レゲエやダブのエディットやバージョン的なものというか、雰囲気としてはそんな感じ物が見えてきて。そうすると『こんなテンポもありかな、こんなサウンドでも大丈夫』というのが決まりだすわけです。結果、出来上がったものは意識したわけではないけれど映画のサウンドトラックのようなものになってはいると思います。実際、アルバムの最初も曲と最後の曲、そしてアルバムタイトルを先に作って、あとはそこに向けて、ふさわしい曲を足していくというようなスタイルで作りました」
──
かつての井出さんのアルバムはヴォーカルやラップがフィーチャーされた曲が多かったように思います。しかし、本作はすべてインスト。
「確かに途中でヴォーカルやラップ、あるいはポエトリー・リーディングのようなものを入れたくなるような楽曲になってきて、そういったものを入れるか迷った時期もあったのですが、それでは、以前と一緒だな、と。むしろ、インストのままで成り立つような曲に仕上げていこうと思ったんです。そこが、2012年バージョンというか(笑)。実際、曲自体はすべて今年完成させたもので、それに、レーベルの150作目となるというのもあって(笑)」
──
とはいえ、井出さんらしさ、例えばダビーなサウンド処理であったり、生楽器の持つパワフルなエモーションであったり、それでいて、メランコリックな雰囲気が全編に漂う感じとか……。その辺は変わらないですよね。
「そうですね、変わってないですね。結局自分が作るとこうなるんだな、という」

信藤三雄が監督を務めた「BRIAN'S ORGAN」のPV。
 

中野裕之が監督を務めた「A PLACE IN THE SUN」のPV。